大人へのプレリュード

世界の終わりを知った日


「大体俺はな、此処数ヵ月雪が止まない事からもう可笑しいと思ってたんだよ」



「11月から今――2月まで、雪が止まないんだもの。そりゃ可笑しいと思わよ」



「それなのに政府は俺達に嘘を付いて隠してただろ?」



「本当、あと6日間しかないなんて。もっと早くに言ってもらいたいもんだわ。」





「まったくだよなぁ」お父さんは自分の真横にいるお母さんに相槌を打った。

「まったくだよね」あたしも真正面にいるお父さんに便乗して相槌を打った。

「まったくだ」お兄ちゃんも真横にいるあたしに釣られてか相槌を打った。



今朝のテレビは、騒がしかった。

「地球、あと6日間で滅ぶそうよ」起きて来てお母さんの第一声がこれだ。吃驚してニュースを流しているテレビに釘付けになる。

確かにニュースではアナウンサーが忙しそうに「皆さん、落ち着いて聞いて下さい。」と視聴者を宥めているけれど

あたしの家は騒ぐことも喚くことも泣くこともしてない。ちょっと可笑しい。

ぱっ、と画面が切り替わり、色々な写真やグラフが写される。どうやら地球が滅ぶ訳を説明している様だけど、駄目だ。

あたしには理解出来ない。分かったことは全国の学校や会社は全て休みになり、交通機関もストップし、今日でテレビ放送も終わりだということだけだ。

そうこうしているうちにお母さんが「ご飯よ、早く食べないと遅刻するわよ」とあたしに呼びかけたので

お父さんとお兄ちゃんが座っている食卓へ向かう。





「これ、昨晩の新聞なんだ」



「え?何で読んでるの?」



「新聞が届かないんだよ。配達の人もそれどころじゃないんじゃないかな」



「なるほど・・・」



、お兄ちゃん、今日学校どうするの?」





お母さんがカチャカチャという音を立てて朝食を運んでくる。


お味噌汁、ご飯、ウィンナー。ちなみにウィンナーはあたしのリクエストだったりする。





「俺、行かない。学校なくなってラッキーだから遊ぶ」



「遊んでも良いけどちゃんと勉強しなさ…あ、地球が滅ぶなら勉強なんて関係ないわねぇ」



「でしょ?絶好の遊び日和みたいな」



「おっ、じゃぁ父さんと久しぶりにゲームでもするか」



「負けた方何か奢ってね」



「で、はどうするの?」



「学校かぁ」





うーん。

世界が滅ぶ6日前、普通学校には来ないよね。でも、あの人だったら学校に来そうな気がする。っていうかきっと来る。

これできっと…あたしが行かなかったら怒るよなぁ…先輩ったらそういうとこ怖いんだから。





「行く。」



ピーンポーン





あたしがお母さんに返事すると同時に、家のチャイムが鳴り響いた。

誰だ。…っと言っても誰かは分かっているんだけど。やっぱり来たか!

あたしは「ごちそうさまっ」と言って食器を片付けると、ソファーに置いてあった鞄を持って玄関に駆け出した。





「行ってらっしゃーい。まぁ彼氏さんが守ってくれると思うけどキチガイには気をつけるのよー」





「はーい」と軽く返事をして外に出ると、にこりと笑ったあの人が立っていた。(やっぱり)





「おはよう」



「おはようございます、せーち先輩」





ばばーんと効果音が鳴りそうなくらい威圧感があるこの方はあれだ。あたしの、彼氏。

更に詳しく言えば幸村 精市。あたしは言いやすいので『せーち』先輩と呼んでいる。





「地球滅亡6日前だと言うのに…学校に行くなんてやっぱりせーち先輩ですね」



「だって、やることなくて暇だろ?学校に行ったら楽しい事ありそうだから」



「こんな時に学校に行くなんてあたしとせーち先輩位ですよ、きっと」



「いや、何人かに呼びかけといたから。大丈夫」



「でもさ、学校に行って何やるんですか?先生居ないから授業もないし…」



「あぁ、そこで俺思ったんだけど、残りの6日間で1日ずつイベントやらない?1年分の」



「いちねんぶん?」



「とりあえず今日は学校に行くでしょ?それで明日からイベント開始。

2日目は球技大会やって、3日目は学芸会。4日目合唱祭、5日目遠足。それで、最終日にお別れ会。」



「うわぁ、楽しそうですね!それ。やりましょやりましょ。全校生徒で。――あ、でも」



「ん?」



「学校、鍵閉まってたりするんじゃないですかね?」



「あぁ、跡部も学校来る筈だから大丈夫。鍵位持ってるよ」



「流石せーち先輩だ。朝の短時間で此処まで出来るとは…」



「ふふ、ありがとう」





でた。せーち先輩必殺技、天使の微笑み(ちなみにこれはあたしが勝手に名づけた)

首を少し傾けてにこりと微笑むせーち先輩はやっぱ美男子だ。


……それにしても、だ。

遠くの方で叫び声が聞こえるのは気のせいじゃないと思うんだけれど…

ついでに言うとマンションのガラスが割れてたり、

ところどころ血の様な物が垂れている(雪で地面が白いからよく目立つ)のも気のせいじゃないと思う。

少し怖くなってせーち先輩を見れば、「まぁ、これが世界の終わりを知った普通の人間の反応だろうね」と言われた。

違う。そういうことを聞きたかった訳ではないのだ!これ、大丈夫だろうか…

あたしも「うがぁ!」とか言って襲われるのでは……そこまで想像してあたしはその先を考えるのをやめた。

恐ろしい。恐ろしすぎる…!





「大丈夫だよ俺が守るから」





そうだ。最初からそう言ってこんな風に手を繋いでくれたらあんな想像しないで済んだのに。





























「みんな、後輩の君達も集まってくれてありがとう。正直こんな状態で学校に来る君達はある意味キチガイだと思う」



「んだよー幸村が来いって言ったんだろぃ」



「そうっスよー。行かなかったらどうなるか分からないし…」



「ちょっ赤也!聞こえるって!」



「でも本当の事だよ…幸村先輩って腹黒だって知ってるだろ?」



「あーん?まっ、俺様の方が幸村より強いけどな」



「だれかお菓子もってないー?コンビニ今日やってなくてさぁ、ショックだC〜…」



「じゃじゃーん!じろちゃん見て見て!昨日買った新作ポッキーでーす!レア物だよ〜、へへ!」





机に座ったり、教室内を走り始めたり、騒がしくなったところであたしは今日来た人を調べてみる。

えっと…机に座ってる丸井先輩と、小泉先輩(この2人は早くくっつけば良いと思う)

その斜め後ろに居る跡部先輩とあたしの従兄弟瑞希(付き合ってるそうだ)

で、ポッキーを美味しそうに食べている芥川先輩と中小路先輩(ラブラブで有名な2人だ!)

そしてその芥川先輩と中小路先輩に絡まれてちょっと困ってる鮎沢先輩(忍足先輩とつきあっているという噂)

教室内を走り回る切原先輩に鳳先輩に蘭ちゃん(いつみても元気な3人組だなぁ)

最後に教卓に立っているあたしとせーち先輩。計12名だ!





「あと6日間を学校で過ごす上でさ、俺が立てた計画があって」





せーち先輩が黒板に文字を書いていく。”2日目 球技大会”…相変わらず綺麗な字だ!





「2日目、球技大会」



「わー!面白そうだな!」



「俺丸井くんと勝負したいなぁ!!」



「3日目、学芸会」



「学芸会…あぁ!小学校ぶりッスね!」



「確か劇とかやるんですよね…楽しそうですね」



「鮎沢さんもそう思う?俺もそう思ったー」



「4日目、合唱祭」



「あー、そういえば昨日練習したばっか。」



「俺様の美声を披露する良い機会だな」



「ぷっ」



「…笑ってんじゃねぇ瑞希」



「5日目、遠足」



「わー!これも小学校ぶり!」



「お菓子は何円までですかー!」



「丸井お菓子の事ばっかだね」



「悪ぃか!」



「べっつにぃぃぃ?」



「…」



「で、6日目。――お別れ会」





ざわざわしていた教室が、一気に静かになる。

あたしは不安になってせーち先輩を見る。せーち先輩はやっぱりふわりと笑った。





「6日目は、集まりたい人だけ集まれば良い。とりあえず、5日目まではこれで良いかい?」



「俺は賛成っスよ!」



「うん、あたしも賛成ー!ね、じろちゃんっ」



「うん!めっちゃ楽しみだC〜!!」



「じゃぁあたしも賛成」



「蘭が賛成なら俺も賛成でーす」



「はっ!まぁ悪くはねぇな」



「あたしも賛成です」



「私も…賛成です。楽しそうですね」



「俺も勿論賛成に決まってるだろぃ」



「あったしもー!」



「みんな賛成の様だね。一応仁王や宍戸にも連絡入れてるからそのうち来るだろう…あ、鮎沢さん」



「はい…なんでしょう?」



「忍足が…連絡取れないんだ。家に行ってみてくれないかな」



「はい、分かりました」





にこにこと笑う鮎沢先輩。

こ、これはもしかして…!!!!

あたしと瑞希ちゃんは咄嗟に目を合わせた。

(やっぱり、あの噂は嘘じゃなかったんだ!)(だよね、だよね!)

そう、鮎沢先輩と忍足先輩はつきあっているという噂だ!

い、意外と言えば意外だけれど納得といえば納得だ。

クールな忍足先輩と真面目で優しい鮎沢先輩…うむ、なるほど。


せーち先輩は「じゃぁ、今日のところはこれでおしまい。また明日もこの教室ね」と言った。

その言葉に教室を出て行く鮎沢さんや走って出てく例の3人組。





「せーち先輩お疲れ様」



「ふふ、ありがとう。俺達も帰ろっか?」



「そうですねー…今日なんか特に危険ですからね。早く帰りたいです」



「また手繋いであげようか?」



「…よろしくお願いします」



「了解しました」





ふわりと笑うせーち先輩はやっぱりかっこいい。

先輩は右手を差し出して来たので、あたしはちょっと嬉しくなって左手を差し出した。