桜が綺麗な季節。
生徒達は「見ただろ!?やったな!お前と同じクラスだ!」やら「今年もお前となんだよな!最悪」とか五月蝿く騒ぎ立てていて、それを先生が五月蝿いと言って静める。
長い長い始業式の始まり。校長の長い長い話が開始される。
俺はそれを遠目にしながら聞くが、それも最初の内でこっくんこっくんといつのまにか寝てしまった。





先生!先生!起きて下さい!」
「ん……ぁ?」
「早く講堂に!挨拶です!」
「あ…マジですか…今行きます、」

ガタッと鉄パイプの椅子を立ち上がり、少し早歩きで講堂へと向かう。
そんなに時間は経ってないよなぁ…と思いつつ腕時計に目を通すとなんと10時5分。始業式始まりから1時間以上経っている。……俺の出番って校長の話の次だったよな?………ああ、生徒共可哀相に。さぞかし眠いだろうなぁ。

講堂に着いてみると案の定生徒達はぐったりとしていて起きている奴等が俺の事を物珍しそうに見つめる。
壇上へ上がる階段の近くには榊先生が居たので軽く頭を下げ挨拶をすると、急いで階段を上がった。

「え〜…あ〜…おはよう。」

あーあ、ちゃんと挨拶の言葉覚えてた筈なのに…寝てた所為で全部忘れた…。
何を言おうか考えていると、椅子に座っている校長と目が合った。…アンタの話が長すぎんだよ…

「えっと、生徒諸君。あのバーコードハゲ――あ、校長の方ね――の話は長すぎるよな。あれ、俺の親戚なんだけどさ。1時間とかありえないだろ。俺も待ってる時爆睡しちゃったよ〜。
 あ、俺は新しく入ったって言うんだーよろしくなー」

―――――続く沈黙。重い空気。
俺、何か間違ったか?校長はあははと笑っているし……あ、そうか

「ちなみに保健室にいつでも居る予定だから。気持ち悪くなったり怪我したりしたらいつでも言ってな?相談も乗るぞー」

ニコ、と効果音が付きそうなくらいの笑顔でそう言いきると、榊先生がニコニコして拍手し出す。
それにつられてか生徒達も拍手してくれて、ちょっと安心したところで俺は壇上を降りた。

先生、良かったですよ」
「あ、榊先生。本当ですか?ちょっとしらけた様な感じが否めなかったと私は思ったんですけど」
「ああ、沈黙が長かったですからね。」
「眠かったんですよー。」
「はは、相変わらず面白い人だな、先生は。今夜辺り何処かに食べに行きませんか?」
「今日はポチに餌をあげなきゃいけないんで駄目ですね。すみません」
「じゃぁ明日は、」
「明日もポチの餌ですね。」
「明後日」
「ポチです」
「そうですか…残念です。」
「ポチは私の大切な金魚ですからね。申し訳ないです。じゃぁ、私保健室に行きますんで」

そそくさと榊先生の元を後にしながら再び講堂を出ようとすると……左側に座っていた金髪の男の子が俺の裾を引っ張ったので思わずそこでストップしてしまった。

先生、だっけ」
「うん、そうだよ。どうかした?具合悪い?」
「うん…ちょっと気持ち悪い…」

目を伏せながらそう言う彼を無数の女子生徒が不安気に見つめる。
時折目が合うので「大丈夫だよ」という意味を含めてニコ、と笑いかけると女子生徒達は顔を真っ赤にして俺から目を逸らした。(可愛いな〜)

「歩けるか?」
「うん」
「よし、じゃぁ保健室行くぞ?」
「うん。迷惑掛けてごめんなさい」
「迷惑なんかとんでもないっての」

よろよろとその子が立ち上がるのを確認すると、その子の左肩に左手を添えてゆっくりと歩き出す。
その子の担任らしき人が心配そうにこちらを見ていたので「ちょっと具合悪いそうです、」と言うと「分かりました」と口にした。

「保健室まであともう少しだかんな。気張れー」
「うー…」











保健室に到着し扉を閉めて男子生徒に座るように促すと、俺はその生徒の前に座った。

「さて――――キミ、部活は何部?」
「え?テニス部…だけど…どうして?」
「テニス部か〜…キツそうだよなぁ。休みたいのか?」
「えっ?」
「…あ、俺勘違いだった?今日部活あんだろ?そして仮病だろ〜バレバレモロバレ」

ニカッ、と笑ってそう言うとその子は目を丸くして驚いた。
さては…こいつ、前までバレた事なかったな?

「安心しろよ。別に告げ口もしねぇから」
「…っ…ぇ…」
「…どした?本当に具合悪くなった?」
「すっげーーー!!!!!!」
「うわっ!?」

どしん、と音が鳴りそうな勢いでその男の子が俺に抱き付いて来る。
突然の事でバランスを保つのが大変だったが、何とか体制を立て直すと俺の膝に座る男の子を抱きかかえて地面に下ろす。

「すっげぇ!せんせいすっげー!何で分かったの!?俺、今までバレた事なかったんだよ〜!?」
「ん?そだな〜……勘!」
「キャー!かっこE〜!」
「へへ、そうか〜?」
「俺ね、芥川慈朗っていうの!ジローって呼んでいいからね!」
「オッケー!ジローな。よろしく。っていうかそんなに元気があるなら帰りなさい」
「A〜…先生ともっと話したいよぉ〜!」
「休み時間に来なさい。沢山話してやるよ」
「ほんとう?」
「本当本当。嘘ついたら針千本――あ、急患が入った時は別だかんな!」

「やったー!約束だC〜!」と目をキラキラと輝かせながら嬉しそうに話すジローを腰に抱きかかえながら保健室の扉を開けて、廊下へと放り出す。
甘やかしはいけないんだ!

「ほれ、行きなさい。頑張って来いよ〜?」
「うん!休み時間にまた来るね!」
「おう!待ってるぜ!」

ばいばい、と手を振りながらニコニコと歩いていくジローを見送って、俺は再び保健室の扉を閉めた。

なんか可愛い子だったよなー。一見女の子に見える位。あれだよな、きっとあの子の事好きな女子生徒沢山居るよな〜。

俺は机に向かい、校長から渡されたここの生徒の資料を取り出すと椅子に座って読み始めた。


この後――、保健室が生徒で満員を通り越して生徒の押入れ状態になる事も知らずに――。