「もういい、お前等帰りなさい!」
「「「イヤです」」」
「具合悪くないでしょーが!」
「先生、俺クラクラしてきたわぁ…」
「侑士…念の為聞いとくけど、何でだ」
「先生の美しい姿に「さっさと帰れ」

こんな会話を繰り返して、本当何分が経ったんだろ…






「せんせぇー!!」
「お…来たかぁ」

キーンコーンカーンコーン、というテンポの良い音がなった途端、廊下に響き渡るあいつの声と複数の足音。
ジローは「先生!!!」と大声をあげながらドアを開けると、目を輝かせて飛びついてくる。

「おー、ジロー。授業頑張って来たー?」
「うん!おれ、沢山頑張ったよ!」
「寝なかったか?」
「うん!」
「よーし、偉い偉い」

ふわふわとした頭を撫でてやると、気持ち良さそうにジローは目を細める。(何か小動物みたいだ)数回ジローの頭を撫でた後、ジロー以外にも保健室に生徒が来ていた事に気が付いた。えと…5人、うわ多いな…何だろう。

「あのー…キミ達は?具合でも悪い?」

にこりとその男の子達に微笑みかけると心なしか男の子達の顔は赤くなって行く。ううん、可愛らしいなぁ、なんてちょっとおじさん臭い事を考えていると茶髪の男の子と丸眼鏡の男の子が俺の前に進み出てきた。

「あのねぇ、これ、おれの友達!先生に会いたいって言うから、連れてきたの!」
「え、本当?嬉しいなぁ。知ってると思うけど、ね。宜しく」
「俺は跡部景吾です。宜しくお願いします」
「忍足侑士。侑士って呼んでや?センセ」
「跡部に…侑士な、宜しく!で、そっちの3人は?」

跡部が侑士を睨みつけながら「くそ、俺様も呼び捨てを要求しとけば…」だなんてちょっと訳の分からない事を言ってるのは一先ず無視して、俺は後ろに居る3人に視線を写した。

「滝萩乃助です。呼び方はご自由に。宜しくね、先生」
「滝な。OK!宜しくー」

滝…か。ずっとにこにこしてるなぁ。何か…茶道とかやってそうなイメージ。優しそうっていうか、大人っぽいっていうか。

「俺、向日岳人!宜しくな、せんせ!」
「向日……や、岳人のがしっくり来るなー、うん。宜しくな!」

赤髪おかっぱ。明らかに元気そうだなー、ジローと一緒にはしゃいでそうな感じ。可愛いなー小さいなー

「宍戸…亮、です」
「ん、宍戸な?宜しく!」

下を向きながら耳を赤くしてごにょごにょと言葉を濁す宍戸。何か凄い可愛いんだけどどうしよう。好みかもしれない。


「おれたちねー!みんな同じ部活なの!」
「え、そうなの?何部?」
「テニス部。全員中学からやってるんだ」
「ちなみに俺様は部長。」
「え、跡部が!?凄いなー、尊敬するよ。俺運動駄目だからさぁ」

あははー、と苦笑いしてみれば「えー、そうなの!?ちなせんせぇ可愛E〜!」とまた腕の力を強めるジロー。(え?俺なんか見下されてない?気のせいだよね?)

「先生運動駄目なんか?テニスだったら…俺が教えたるで?――手とり足とり腰とり」
「あははーうん、遠慮しとく
「あ〜ん?俺様が教えた方が絶対先生も上達するに決まってんだろ?先生もそう思うよなぁ?」
「えー、先生!そんな事より俺と遊ぼうぜ!」
「もう、3人共五月蝿いなぁ。抜け駆けは許さないよ?先生、俺と今度夕食でも食べに行きましょうよ」
「やだー!せんせぇは俺のなのー!」


う、五月蝿い…………!


一気に五月蝿くなったぞ…!凄いなぁ、これが子供パワーっていうか…あ、こいつらもう高2かぁ。高2っつったら結構大人なんだよなぁ。

相変わらずジローは俺の腰に抱きついているし、他の4人は五月蝿いし、なんかいつの間にか保健室に(っていうか俺の周りに)他の生徒達が集まってきてて「先生の出身は?」「何歳?」「性別は?」だとか質問攻めだし…本当これどうしたら良いんだろ…

とりあえず他の生徒の質問に答えながらもそろそろ教室に帰りなさい(なんたって休み時間は10分だけなのだ)、と促し何とか生徒を帰らして行く。(狭いんだよ第一!この保健室広い筈なのになんでこんな狭く感じるんだ!)それでなんとか残るは未だに争ってる5人+ぼーっとしてる宍戸だけになった。
「ジロー、とりあえず手ぇ放しなさい」と言おうとすると、キーンコーンカーンコーンと授業の始まりを告げる鐘が鳴った。

「ほら、授業の鐘鳴ったでしょ。帰れ帰れ。遅刻するよ?」
「あ〜ん?ンなもん俺様の力で何とかなるんだよ」
「(跡部って一体…)駄目駄目。帰って授業受けろ。また休み時間来て良いから。」
「授業中に具合の悪いフリした生徒が先生を襲ったらどうすんだよ!くそくそ!」
いや待て、それありえないだろ
「いや、俺は先生を24時間見つめていたいんだよ。」
そんな怖い事言わないで下さい

なかなか帰りそうにないこいつらをどうしようかと思っていると、「先生、」と力弱い声が聞こえて来た。

「ん、宍戸?どうした?」
「先生…ちょっと、朝から具合悪くて…少し休んでもいいか?」
「大丈夫か?とりあえずそこ座って熱計って。」
「あぁ…。」

そんな宍戸とのやりとりを見て奴等は一言

「「「宍戸の奴先生を押し倒すつもりだ。先生は俺が守る!」」」

この台詞に俺は無理矢理にこりと笑って「余計なお世話だ」と呟いた。
そして、冒頭の台詞へと続くのだ。




※先生は跡部たちに対して「ホモだな」とか考えてません。高2ってこんなもんだろ、みたいな。先生=友達みたいなそういう緩い関係かなー?みたいな。つまりは天然で鈍い先生でした