目の前には女の子を姫抱っこで抱きかかえ、にこぉ、と笑うティキさん。その横にニヤニヤと笑っているリオンさん。そしてその後ろには笑を堪えているのか口元を押さえるロード。
俺は今の状況にはてなまーくを浮かべながらティキさんを見上げる。

「なにか、用?」
ー!この女の子見てー?」
リオンさんが指差す女の子。・・・うむ、可愛い。可愛いが、これがどうしたと言うのだろうか。ひょっとして、俺に点数を付けろ、とかそういう魂胆だろうか!

「駄目駄目。女の子に点数は付けちゃいけないよ?ティキさん、その女の子早く元の場所に戻して来なさい。」
この言葉に加えて「めっ、」と言うと、後ろに居たロードは「あはははは!」と豪快に笑い出した。

「ほらぁ、やっぱ無理なんだって!ティッキーどんまい!」
「あはー!どんまいどんまい!」
「…分かってたよ。こういう結果だろうなーってね。でも。一応聞くけどさー、俺がこーんな可愛いこ抱っこしててもは何とも思わないワケ?」

―はぁ?どういう意味ですか?と問いかけると、盛大に溜息をつかれてしまった。
「溜息ついたら幸せ逃げますよー」
「良いよ。逃げたら捕まえるのが俺の武士道だもん」
「ティッキーは武士じゃないじゃん」
「心は武士なんだろ?ほっといてやれって。あいつ今ダメージ1000位受けてるからさ」

腕を組みながらティキさんに同情の眼差しを送るリオンさん。
くそう、一体なんだっていうんだ。みんなで俺を嵌めようとでもしたのか?――まぁ、許してやろう。俺は心が広いから。
俺は近くのテーブルに置いてあった袋から1枚お煎餅を取り出すと、ティキさんに差し出してやった。(なんたってこの煎餅は俺のお気に入りの煎餅なのだ)

「ティキさん。これあげるから、その女の子戻して来なさい。」
「…はいはい。分かりましたよー」

ティキさんは俺の差し出した煎餅をぱくり、と口で受け取ると抱いていた女の子を空へと頬リ投げた。
「こら、ティキさん!」と俺が彼を叱るのと、その女の子が無数のティーズへと変わったのはほぼ同時だった。

「え、なに?今の!」
「ティーズで作った幻影っていうか何ていうか?」
「すげー!ティキさんすげー!いつのまにそんな新技を!」
「そりゃぁ、俺の愛しいの為に?まぁ朝飯前だね」
「ある意味の為だけどね」
「でもある意味自分の為だよねぇ」
「うっさいリオン、ロード」

俺のあげた煎餅をぱりぱりと食べながら言葉を繋ぐティキさんに、俺は「どうだ。煎餅美味しいだろう」と言ってやった。
「ねぇー!俺にもちょーだい?」
「駄目。そんな可愛く言ってもあげない」
「ねぇ。じゃぁ僕にちょうだい?」
「ロード喜んで!」

「なんだよその差ー!」と頬を膨らますリオンさん。俺はお煎餅の袋を持ってロードの元へ歩いてく。

「だってリオンさん煎餅全部食べちゃうじゃん」
「食べない!だから、ね?ね?俺も欲しいなー?」
「おいリオン。諦め悪ぃとに嫌われるよ?」
「うっさいティキ。」
「俺五月蝿くないもーん」
「…――フッ、まぁいいさ。俺ティキが居ない間にとニャンニャンしてるもん」
「――はぁ!?」
ってば良い声で鳴くから…俺、もう…」
「お前っ!表に出ろ!勝負だ!」

「上等!」と叫びティキさんと外へ向かったリオンさんは軽くスルーして、「今日も平和だね」と呟きながらロードに煎餅を渡す。
「今日も平和だねぇ」と呟きながらロードは煎餅を口へ運ぶ。

ノアの一族って言うのは、よくイノセンスを壊しに行ったりといつ死んでも可笑しくない様な人々なのだが、実際のところはこんなのほほんとしている。
皆さんのイメージはアレだろう。この物語はしりあすであり少しぐろてすくな感動系の物語。言っておくが、そんなのは大間違いである。そんな事をティキさんやリオンさんに言ってみろ。今に大爆笑される。
そしてこれが俺の日常であり、凄く凄く平和な日常である。