が居るとすれば、あそこしかない。普段は使うことのない屋敷の外の空き部屋で、罰則を受ける者が閉じ込められる所。
自分がそこへ行って何をしようかなんて見当もつかないし、俺1人が騒いでも今更を殺すということが覆される筈もなかった。――じゃあ、俺は何をしに行くつもりなんだ?に会うだけ会って苦しめるだけ。…それなら、元から会わないほうが良いのではないだろか。
その瞬間、馬鹿みたいにうるさかった心臓が一瞬にして静かになった。に会うことが馬鹿馬鹿しく思えてきてしまった。


「どうせ…、俺が1人で反論したって――、何も変わりやしない…」


走っていた足が歩きに変わり、ついに止まった。
俺は何処まで馬鹿なんだろう。感情に身を任せて、残るのは苦しみだけ。そんなのは御免だ。ならばこのままに大人しく死んでもらおう。…そうだ。これは俺がと会ったときから決まっていたことじゃないか。


「っ清純さん!」


この屋敷の者ではない、高く透き通った声。自分でも驚く程の冷たい感情を持ったまま、その声の方向を見つめた。


「――っ、」


長く美しい髪を靡かせながらも頬を火照らせ、自分の元へ走ってくる彼女。走る音に合わせて鈴が鳴り響く。黒い着物も彼女の雪の様な肌をよく引き立てていて、酷く妖美に魅せていた。


「っはぁ、――はぁ、」


息を整えながらも眉を寄せ、辛そうな目を向ける彼女もこの世のものとは思えないくらい美しかった。ああ、これがなのだ。そう思うと胸の奥からなにやらふつふつと湧き上がるものがあって、それを必死に抑えて飲み込むのが大変だった。


「……、れ…」
「…っはぁ、…?」
「…誰だ」


なるべく彼女の顔を見ないように。感情を込めないように。


「清純さん、です…」
「俺は――っ、そんな人、知らない」
「っ!」
「…何で此処に居るんだ。君の居るべき場所は此処じゃないだろ」
「清純さん…?です、…っ覚えて、ないんですか…?」
「知らない」
「〜、きよすみさん?」


彼女の声が震えているのが分かった。それでも何も聞かなかったように、彼女の細い腕を強く握り締めた。
「いたい――、っ痛いです!」
の悲痛な叫びを無視し、階段を降りて行く。清純さん!清純さん!と何度も俺の名前を呼んでくるのには流石に胸が締め付けられたが、俺は今ここで彼女に優しくすることは出来ないんだ。誰だって自分は可愛い。苦しみたくないから、俺は――。


1階に降り、裏庭への扉を開くと焦ったように行ったり来たりしている彼等を見つけた。彼等が今日、を殺す2人。どうせ悲鳴を聞きたくない跡部の命令で真夜中に殺せと言われたのだろう。なるべく血を出させるために首を切ってしまうのだから、誰だってその現場は見たくない。
「お、千石!連れて来てくれたんだー!サンキュー」
「別に良いけどさ、も〜…なにやってんだよ」
「このアホがよう…そいつ、あんまりに無知だったから面白がって全部教えちまったんだ」
「これから殺すことも?」
「だって最期だから良いかな〜って…そしたらそいつ、逃げちまってさ〜!」


ま、誰か見つけてくれるかなって思ったしー?
暢気のそう呟いた彼に苦笑しながらも、俺の浴衣にしがみ付き震えている彼女を指差す。
「オラ、じゃあこっち来いよ」
「…」
「大丈夫だって〜。一瞬だから!」


それでも必死に俺から離れようとしないに彼等は痺れを切らし、無理矢理の腕を掴み引きずっていく。
――俺の所為で。俺の所為で彼女は死ぬ。俺の所為で彼女の人生は狂った。全て、俺の所為。全て、俺の罪。せめて、彼女の最期をこの目にしっかりと焼き付けて…


「〜っきよすみさん!」
涙をぼろぼろと零し、嗚咽混じりに助けを求めようとは俺の方へ手を差し伸べる。


「はーい、黙ってないと舌噛むよー」
「さっさと終わらせちまえ・・・」
「りょうかーい」
2人の片割れ、ジンはの手を後ろで結び大きな斧を構えた。


必死に、目を背けない様に。
強く握り締め過ぎたのか拳から血が出てきた。


「いやあっ!死にたくない・・・っ、きよすみ、さん!」
「――っ、」
「きよすみさん、たすけて!きよすみさんっ!」
「よーし、じゃあ行くよ〜!」


、ごめん。
俺を恨んでくれれば良い。
、ごめん。


「――ごめん」










なんで・・・