そっと目を瞑れば


映し出されるのは真っ暗な世界と寂しげに笑う貴方。


ねえ、今、どこにいるのかな。


早く貴方に会いたいよ。




それまでちゃんと、あなたと交わした約束を守るから。





















私には前世の記憶があった。いや、正確には前世なんかじゃない。さっきまで見ていた世界だ。
忘れる訳がない。あの人は私のすべてだった。私の世界を、大きく変えてくれた人。
彼の胸の中で一生を終えることができて、幸せだった。最後に見た彼の苦しそうに眉を寄せるようにした優しい笑みがずっと頭に焼き付いて離れない。

――『良い夢を』。

その言葉の通り、長い間眠っていた気がする。
目を開けたら、窓から差し込んだ夜明けの不安定な、儚げな紫の光が目に入った。

顔を少し横へ向けると、ぼやけた世界が視界へ入り込んだ。
タイルの上に無造作に放り出された手には、鈴のついた簪が乗っかっている。それを上手く力の入らない手でそっとにぎりしめると、鈴の音が小さく音をたてた。


――きよすみ、さん。


ああ、この名を呼ぶのもとても久しぶりな気がする。何年振りだろうか。いや、何百年振りなのかもしれない。

そのまま視線を奥へ泳がせると、ソファーの上で眠ったように固まってる女の人が見えた。――あの女の人を、私は知っている。・・お母、さん。腕を胸の前で組み、祈るような姿で静かに眠っている。

頭に靄がかかったように、よく物事を考えることができないが瞬時に悟る。お母さんは、もう生きてない。だって、あの日私はこの目で見たんだ。彼にソファーへ寝かされるお母さんを。この目で、見た。


「・・きよすみ、さん」


ああ、私だけ戻って来てしまった。貴方は、何処にいるんですか。どうして私は、あの時に時間を戻されてしまったの。あなたとの時間までなくなってしまった様で酷く寂しい。胸が、苦しい。

感覚がもどってきた手で今度は強く簪を握り締める。その簪だけが、清純さんと過ごした時間は偽りじゃないと教えてくれた。




泣かないよ、清純さん。

泣かないで、あなたを待ってます。

だってこれはあなたと交わした約束だから。

泣かないで待っていると、約束したから。


だけど苦しくて仕方がない。

この気持ちがなんなのか、分からなくてもどかしい。


清純さん、お願いします。

早く私を迎えに来てください。

あなたに会いたくて、会いたくて、仕方がないんです。



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(さあ懺悔を始めようか、)