体力には自信がある。金のない私はジャポンからここまでの道を歩いて、泳いで、走って来たのだから。ジャポンから隣の島へ渡る時、勿論私は泳いでいったのだが死ぬかと思った。泳いでも泳いでも島が見えない。それでも水死なんて洒落にならないし何よりかっこ悪いので根性で泳ぎきった。なので、体力には自信がある。

男達の後を走ってどの位の時間が経っただろうか。相変わらず最後尾をキープしていたのだが、暇なので少しスピードを上げてみようと思う。

次々と男達を抜かしていく中、なんとなく横を見やれば金髪の少年と目が合った。そのまま逸らさずに少年のスピードに合わせて走ってみる。少年が何だとも言わんばかりに眉を顰めた。


「やぁ」
「・・・。」


とりあえず挨拶をしたのだが、少年はますます眉を顰めた。どうやら私を警戒している様だ。待て、私は怪しい者ではないぞ。ノリが良いだけで、訳は分からんが走ってるだけだ。そう、私は走っているだけなんだ。


「少年は赤が似合いそうだな」
「・・どういう意味だ」
「深い意味なんてない。そのままの意味だ」
「・・」
「ふむ。カラコンして赤い瞳にでもなってみたらどうだ?似合うと思うぞ」
「(赤い瞳――こいつ・・!?)」
「おい。そんな睨むなよ。私は怪しくないぞ。少年の復讐相手だとかそんなんじゃないからな。」
「・・貴様、何者だ!」


少年が鋭く睨みつけてくる。おいおい、何をそんなに怒っているんだ。それよりも私は今日人を怒らせてばかりだな。あの変態ピエロといい、この少年といい。
私は人を怒らせるより笑わせる方が好きなのだが。ふむ、とりあえずこの少年の誤解を解かねばならない。少年よ、落ち着け。人類皆仲間ではないか。


「少年、私はお前の仲間だ」
「ふざけるな!」
「思い出してみろ。私達は仲間だろ。家族だ。同じ種族だ」
「!?」


人類皆平等。人類皆仲間。これが私のポリシーだ。
すると少年の目が驚愕の色を映し出す。そして少年の口から「まさか・・生き残りか!?」と小さく言葉が零される。生き残り?ああ、そうだ。私もこの冷たい世の中を生き抜いてきた、生き残りだ!ここに走っている男達も、みんな生き残りだ!
その意味を込めて小さく頷くと、少年はなにやら複雑な表情をする。思い悩んでいるような、まだ疑っているような。
少年よ、私はお前の仲間だ!人類皆仲間!

ふと少年がいる反対側を見やる。私の左側には息を切らしながら必死に走っている大男がいた。大男の胸元ではネックレスが走る動きに合わせて揺れており、その先端には蜘蛛の飾りがついていた。
蜘蛛か、そういえば私の兄弟は蜘蛛が大の苦手で出る度に怖がっていたな。


「蜘蛛は・・兄弟の変わりに私が潰してやるんだ」
「(・・この男も、私と同じ――?)」
「(風呂場に出た時とか)さぞ怖かっただろうな」
「(間違いない。この人は・・私の仲間、クルタ族の生き残りだ!)」


兄弟は元気だろうか。ちゃんと蜘蛛を退治することは出来ているだろうか。家に帰ったら蜘蛛の巣になってましたなんて冗談は笑えない。ああ、心配になってきたな。久しぶりにジャポンへ帰るか。


「先程の無礼を詫びさせてくれ。・・まさか、仲間だとは思いもしなかったんだ」
「やっと気づいたか。別に気にしていない」


少年よ、人類は皆仲間なのだ。ようやく気づいてくれたか。私は嬉しいぞ。
少年の顔に笑顔が浮かぶ。つられて口元を緩めると少年は少し面食らったような顔をしたあと、またにこりと笑った。

さて、少年と分かり合えたところでちょっとスピードをあげてみるか。この行列の先頭に居る者に今の状況を聞いてみよう。マラソン大会なのか、一体なんなのか。


「じゃあな、少年。また会おう」
「え、ああ・・って、ちょっと待ってくれ!まだ聞きたいことが――」


スピードをあげた時に少年が何か言った気がするのだが、やはり気のせいかもしれない。
軽く手を振り、私は走るスピードを上げた。





続くかは謎です。