-番外編-




「あ、雨……――っぎゃー!」
「スコールじゃのう」
「なんでそんな冷静なんですかー!ぎええ、濡れる!はげるー!」


仁王さんとの帰り道。徒歩通学の仁王さんはいつも電車通学のあたしを駅まで送ってきてくれるのだ。(やさしい!)
仲良く仁王さんと喋っていると、いきなりの雨。なぜ…!目覚ますテレビの福田アナでさえも、今日は雨は降らないと言ったのに!(ちなみに福田アナとは今あたしの中で1番流行している綺麗な女の人だ!)(いや、でも仁王さんが一番綺麗だ!)


「におーさん!走りましょっ!」
「…あ、俺んち来るか?」
「なっ、仁王さんの、家!?悪いです!駄目です!」
「でも俺んち、近いぜよ?それにお前さんもずぶ濡れのままじゃと風邪引くじゃろ」
「え、う、でも!!」
「強制連行。」


そう言うと、仁王さんはあたしの腕を引っ張って走り出す。いきなりの事に転びそうになったのだけど、仁王さんはちゃんとあたしのスピードに合わせて走ってくれるのでそこまできつくはなかった。
ザーザーと降りしきる雨の中、ぱしゃぱしゃと音を立てて走って行くあたし達。う、わ!これって軽く青春だ!
そ、それにしても…あたし、仁王さんの家に本当に行くのだろうかっ!ちょっと、心の準備が…!!ど、どうしよう!
頭の中をぐるぐるさせていると、仁王さんが徐々に走るスピードを緩める。そして目の前にあるマンションの扉を開けた。


「仁王さん、ここ…」
「ん。俺んちのマンション。」
「…!!、仁王さん!じゃあ傘貸してくださいっ!あたしそれで帰れます!」
「ダーメ」
「だって、お母さんとか居ますよね!?うう、無理です!恥ずかしいです!悪いです!」
「俺1人暮らしじゃから大丈夫」
「ひとりぐらし!?」


そう会話を進めながらも仁王さんはポケットから鍵を取り出し、自動ドアの扉を開ける。
そして腕を引っ張られながらエレベーターに入り込む。


「え、ご飯とかどうするんですかっ?」
「簡単な物なら作れるからのう」
「洗濯も、掃除も?!」
「そん位お前さんでも出来るじゃろ…ん、行くぜよ」


ぎゅっと握りしめられた手を引っ張られて、一番奥のドアまで歩いて行く。仁王さんはそこでまた鍵を出して、扉を開けて中に入った。
――うわあ、仁王さんの匂い…!どうしよう、凄くドキドキする!仁王さんの家は…1人暮らしにしては広すぎる気がする。ていうか、これうちの家よりも広いんじゃないだろうか!…なんか、事情があるのかもしれない。あたしは…、聞かない方ガ良いよね…?


、鍵閉めて」
「あ、はい」
「ちょっと待ちんしゃい?」
「は、はいっ」


仁王さんは奥の部屋へ入って行ったと思えば、なにやら着替えを持ってまた出て来た。


「お前さん、シャワー浴びてきんしゃい。これ、着替え。」
「…、っ!!?」
「安心しんしゃい。別に変な事せんから。…してほしいなら別じゃけど」


そうして仁王さんは「ん。」とあたしに着替えを押し付ける。うわあ、仁王さんの洋服…じゃなくて!しゃ、シャワー!?そんなの、恐れ多い!ていうか、変な事、って、う、うわあ!
仁王さんは色んな気持ちが混ざって棒立ちしているあたしの腕を引っ張って、お風呂場らしき所ににあたしを押し入れた。


「におーさんっ!シャワーなんて恐れ多いです!」
「別に良か…あ、シャンプーとかドライヤーとかタオル、使って良いからの。」
「せ、せめて仁王さんが先に入ってください!」
「――お前さん、…早く入らんと服無理矢理脱がせるぜよ」
「(脱が――ッ!?)は、入りますっ!!」


脱がせるって!脱がせるって仁王さん、セクシャルハラスメントどころではないよ!うう、凄い、ドキドキする。緊張する。
良く見たら、髪の毛も、Yシャツもセーターも全部びしょびしょである。…うん、此処はお言葉に甘えて入らせてもらおう・・・!







***







「におーさん、あがりまし…た?」


仁王さんのお風呂ってば素敵だった!な、なんとお風呂にてれびがついていたのである!(勿論見てない!きょ、興味本心でちょっとつけてみちゃったりしていない!)シャンプーとかも、う、わ!これ仁王さんの香りなんだ!とか我ながら変態チックなことを考えてしまった。…すごい、ドキドキの連続である。
お風呂から上がってタオルで体を拭いて、仁王さんの服を着てみる。……見事にダボダボである。本来かっこういい筈の黒を基調としたパーカーも、あたしが着ると見事にだぼだぼである。そして一番の問題点がジーパン、だ!…パーカー以上に、だぼだぼである。…此処までだぼだぼだと、足の長い仁王さんにちょっとむかついたりもしてしまう。
そしてドライヤーで髪を乾かして、制服を絞って、仁王さんの待つ部屋へ…あ、も、ももも勿論リビングだ!仁王さんの部屋、なんて、は、はい、入れない!
すると当本人の彼は、タオルを首から下げソファーに横たわり、すやすやと寝息をたてて寝ていた。


「(くそう、寝顔まで綺麗だ!)」
「……」
「(…、かっこういい…、)」
「―――、ん…」


突然、今にも泣きそうな顔をする仁王さん。何故か反射的にあたしはきゅ、と仁王さんの手を握りしめる。そして、仁王さんと向かい合わせにするようにして座った。…どうして、そんな顔をするのは分かんないけど…、仁王、さん…。


――泣かないで、もう苦しまないで。良いんだよ、貴方は悪くないよ


そんな言葉が、脳裏を過ぎった。









***







「…、」
「あ。起きたか」
「――、あたし、眠って…!?す、すみません!」
「ん。大丈夫」


ふわり、と笑う仁王さん。(うおおう、ちょう、すてき!)
目を擦りながらとりあえず起き上がる。窓を見れば…曇った、紫色の空。やば、寝すぎた・・・!?


「うわぁ、帰らないと!」
「もう、泊まってったら良か。」
「泊まる、とか、うう、む、無理です!」
「…じゃあ、その格好で帰るんか?」
「…、ギリギリのラインで大丈夫なだぼだぼの感じなんで、へーきです!」
「…」
「とにかく帰ります!仁王さん、本当ありがとうございましたっ!」
「…駅まで送ってく」


・・・におうさんってば素敵すぎるのだ。今日はこの辺で帰らないとい、命が持たない・・・!






***






「あれ、この道行きに来ましたっけ?」
「行きとは別の道。こっちからのが駅まで早いんじゃよ」
「そうなんですかー!」
「ん。あそこの踏み切りを渡って真っ直ぐ行って曲がれば駅。」


仁王さんと肩を並べながら車通りも人通りも少ない道を歩く。勿論手を繋いで。
――あたし、仁王さんのこの手の繋ぎ方が大好きだ。自分で言うのも恥ずかしいんだけれど、こう…大事な物を、包み込むような…というか、うう!やっぱり恥ずかしい!
そしてそのまま歩き続けて、踏み切りの前であたし達は止まった。すると直ぐに電車が通って、遮断棒が上に上がろうとする。…、なんか、寂しいなあ。


「…踏み切り…もっと長く鳴っててくれたら良いのになぁ」


そうぼそりと呟いて、足を進める――のだけど、仁王さんは立ち止まったままだ。


「にお、――?」


振り返った瞬間見せた、彼の泣きそうな顔。だけどそれも一瞬で、ぎゅ、と頭を抑える様にして仁王さんに抱き締められる。…仁王さん、今日…なんか変だ。


「におさん?」
「――、
「?」
、…、」
「仁王さん…?」
「何処にも行かないで…」
「――、」
「俺と、ずっと一緒に居て…?」
「…」
「それだけで、良いから…」


1人言のように呟く仁王さん。一緒に居て、…そ、それって・・・もしかして…


「仁王、さん…」
「…」
「それって……プロポーズですか!」
「…は?」
「やったー!あたしプロポーズされちゃった!仁王さん、絶対離しませんからね!」
「――、それ…普通男の台詞じゃろ」
「いいんですー!ずっとずっと一緒に居ましょうね!」
「…ん。」


ようやくあたしを放してくれた仁王さんは、とても幸せそうに目を細めて笑っていた。


「やっぱ今日は泊まっていかんか?」
「え!?う、あ、」
「俺達結婚するんじゃろ?」
「〜っ!!」