ちゃん―?大丈夫?」

優希さんにその言葉をかけられて、あたしはようやく我に帰った。
仁王さんってばやはり危険なおとこだったのだ…!以後気を付けなければ!













「じゃぁ、今日の練習はここまでね」
「「「ありがとうございました!!」」」


幸村さんに向かってお辞儀をする部員の皆さん。ああ、幸村さんってばやはり美しい!かっこういい!素敵!
ぞろぞろと部室へ入っていく部員達にあたしと優希さんは「お疲れ様でしたー」と挨拶をする。(優希さん、少し赤目になりかけてて皆さんちょっと恐縮気味)
優希さんが何やら用事があるらしく、小走りに何処かへ走っていく。さて、あたしはどうしようか…と考えていると、にかっと笑う丸井さ…、ブン太さんと赤也くんが走ってきた。


ー!」
「あ、ブン太さんと赤也くん!お疲れ様でしたっ」
「なぁなぁ、俺の妙技見てたー?」
「あ、はい、見ましたよ!すっごい素敵でした!あの地味さとかっ、何とも言えない地味さでした」
「(地味…)」
「なぁ!じゃぁ俺は!?」
「うん、赤也くんのも見てたよ。とっても、凄かったよ」


本当、2人のテニスは凄い物だった。素早い動きとか、到底あたしには真似出来ないだろう!この2人でもあんなに凄かったっていう事は、だ!部長の幸村さんときたら相当凄いに違いない!(運が悪く、幸村さんの練習は見る事が出来なかったのだ)


「ブン太、赤也。さっさと着替えないと部室、鍵閉めるよー?」
「あ、幸村ブチョ」
「おーう、分かったぜぃ。じゃぁまたなー」
「(ぎえー!幸村さんだぁ!)」


ラケットを片手に、まだジャージ姿の幸村さんはこちらへ近寄りながらそう言った。
にか、と笑う赤也くんとガムを膨らましながら手を振るブン太さんに反応も出来ずに、あたしはただただ自分の顔の熱が上がってくのを感じた。


、マネご苦労様。大変だった?」
「いえ、あの、その、全然平気ですっ!幸村さんこそお疲れ様でした!」
「ふふ、ありがとう。あ、帰り一緒に帰ろうよ。俺、着替えるから…も着替えて、校門で待ち合わせしよう?」
「はい、了解です」


幸村さんはちょっと汗をかいてて、うん、なんか制服姿もかっこういいんだけどジャージ姿だと男らしさが増して――やっぱ、幸村さんも男の子なんだよね、うん、なんて思ったりした。
幸村さんはにこ、と笑うと、部室へ入っていった。

なんか、あたしって幸せだ。





















「あ、待たせちゃった?ごめんね」
「いえ、全然待ってないです」


「そう?良かった。じゃぁ帰ろう?」と幸村さんはにこりと微笑む。
その微笑みを見てあたしはまた顔がかーってなって、後ろからブン太さんの冷やかしの声が聞こえた。(あ、明日ぎたんぎたんにしてやるのだ!)


――実は、だ。実は、これ、初めて一緒に帰ってたりする。あたしってば帰宅部だったもので、幸村さんと一緒に帰る事はなかったのだ。
「初のマネ体験、どうだった?」「えと、大変だったけど…優希さんが居たから助かりました」「ああ、切原ね。あいつは結構頼りになるから」「はい、本当綺麗だし、大好きです!」こんな会話を交わしていたんだけれど、不意に幸村さんが黙ってしまった。あたし…何かいけないこと言ってしまっただろうか!どうしよう、気まずい!―と思っていると、右手にぎゅ、と感触が


「………」
「………」
「………」
「………!!!!!」


手!?手!?手!?
ぎゃー!あたしと幸村さん、手!手ぇ繋いでる!ひえー!何コレ!ぎゃー!ぎゃー!

もう、大変だ。大惨事だ!あたしの顔の熱は止まる事を知らずに上がり続ける。(だって、手が!)


「…そんなに照れられると、余計恥ずかしいんだけどな」


そんな言葉を聞いてふと幸村さんを見上げると、彼の顔もほんのり赤くなってて。(え、赤!?)


「…ゆ、幸村さんでも照れるんですね……」
「当たり前だよ」
「だって、幸村さん、あたしにその、ちゅーとか、平気でしてたから、」


”キス””ちゅう”という単語が恥ずかしくて、もごもごしたら幸村さんも「ああ、あれ…」ともごもごした。
幸村さんって、女関係について達人かと思っていたのに!


「あれは…必死だったから」
「そうだったんですかっ…ていうか幸村さん、あたしに『ウザいキモい』って…挙句の果てには告白の時に『君、誰?』ですよ!?あれは相当ショックでした」
「だってさ、俺、好きな子とは付き合えないし。普通に断ったら…相手の子だけ傷ついちゃうだろ?そんなの、理不尽だと思って。俺だけ傷つかないとか、ズルイでしょ?」


――だから、幸村さんはわざと酷い言葉を言って…わざと嫌われようと……?
もしかしてあの言葉は、幸村さんの最上級の優しさだったのかもしれない。なんか、本当幸村さんの意外な一面。


「幸村さん、」
「ん?」
「好きです」


ぼそっと呟いたようにそう言う自分に吃驚する。え…あたし何言ってんだ!?今更告白!?え!?どうした、


「うん、俺も好き」


パニック状態のあたしに真っ赤になって言う幸村さんの言葉。


すごいすごい、心が暖まった。この時間がいつまでも続きます様にと強く願った。