「…そんな膨れっ面しなさんな」
「…誰の所為だと思ってるんですか。ああ、幸村さん…大丈夫かな、」
「明日になってちゃんと話せば納得してくれるじゃろ」
「………まぁ、そうかもしれないですけど…、悪いことしちゃった…。」













、そっちじゃなか」と仁王さんに何回言われただろうか。高いビルやお店が立ち並ぶ中、ようやく着いたのはシンプルなのかごちゃ、としているのかどちらとも言えないが綺麗で爽やかな雰囲気のお店だった。
中を覗いて見れば――中高生の男の子ばかりである。なるほど、ここはきっと男の子に人気のお店なのだ…!


「入るぜよ」
「え、入るんですか」
「入らなくてどうするんじゃ」
「だって、その、何かあたし入りずらいじゃないですか!」
「…はぁ。」
「ちょ!仁王さん!先行かないでくださいよ!…うう、もう!」


ずんずんとお店の中へ入って行く仁王さん。入るのも嫌だが、このお店の前で佇んでいる方がもっと恥ずかしい!――ので、あたしは慌てて仁王さんの後を追う。
棚に置いてあるネックレスやら、Tシャツやら、ベルトやら、色んな商品に目移りしていると急に仁王さんが立ち止まった。


「早く決めんしゃい」
「え、そんな、――仁王さんだったら何貰ったら嬉しいですか?」
「彼女から?」
「はい!」
「本当に好きな奴じゃったら―、何貰っても、嬉しい…」


ふい、とそっぽを向いてぼそぼそと呟くように言葉を吐く仁王さん。…どうしたんだろう、あたし仁王さんの機嫌を損ねる様な事言ってしまったのだろうか!…やっぱり、早く選んだ方がいいよね、うん!
そう決心したあたしはきょろきょろと店内を見渡す。すると、ある物が目に入った。


――誕生日石の、シンプルネックレス。


縦4cm程、幅1cm程の板状のプレートの上にベビーリング(誕生日石)が乗っかってるシンプルなネックレス。
――これ、絶対幸村さんに似合う!!
1月2月〜と並ぶ中で、幸村さんの誕生日石の”3月”を探す。
『アクアマリン――癒しの石』
癒しの石!?まさに、幸村さんっ!これだ、これに決めた!ちょーっとばかしお値段は気になるのだが、ここは奮発するとしよう!だって、幸村さんの誕生日なんだから!幸村さんの笑顔を見るためならあたしはいくらでも払えると断言する事が出来る!むふん。


「―それにするんか?」
「あ、はい。これにします!お待たせしました」
「誕生日石…。お前さん、何月生まれじゃ?」
「あたし、ですか?9月です!えへへ、夏が終わって過ごしやすい季節です」
「9月……、『サファイヤ――強固な愛を誓う石』、ねぇ…」


その言葉に嬉しくなって「まさにあたしにぴったりですね!うふふ、幸村さんへの強固な愛ー」とはしゃぐあたしを見てか、仁王さんは「はは…、」と苦笑した。…なんだ、なんで苦笑するんだ。そんな切なくなるような笑顔、こっちまで胸が痛くなる様な笑顔、これは反則だ。
だがそんな仁王さんも一瞬で、「じゃぁ買ってきんしゃい」と優しく笑う仁王さんへと変わった。(なんだ、猫みたいな人だ。ころころ表情変えやがって、この校長上のペテン師…ん?あ、コート上のペテン師だ!)

支払いを済ませて出口へ行けば、仁王さんが微笑んで待っていた。


「お前さん誕生日、9月5日?」
「え―!?何で知ってるんですか?まさか、仁王さんあたしのストーカー!?」
「アホ。」
「アホとは失礼ですよ!…で、何で知ってるんですか?」
「『ケイトウ―花言葉、気取りや。一見落ち着いて見えるが実はかなりのそこつ者。しょっちゅう転んだりぶつかったりするが……』」
「花言葉ですか!?凄い、凄いです仁王さん!で、続きは何ですか?」
「……教えてやらん。ぜーったい教えてやらん。」
「え、酷い!教えてくーだーさーい」
「絶対教えん。」
「…いつか教えてくださいね」
「絶対教えん。」
「…………もう良いです!でも何で知ってるんですか?」
「小さい頃、某従兄弟の趣味に付き合わされて覚えてしまったんじゃ」
「もしかして……、幸村さん?」
「あぁ。」
「えー!幸村さんの趣味花言葉を覚える事ですか!?」
「あいつの趣味は小さい頃からガーデニングじゃ。」
「ガーデニング…!幸村さん、素敵!」
「…気にいった花を何度も調べるから…俺まで…」
「へー!仁王さんが花言葉…………ぷっ、」
「笑うな。流石に全部は覚えとらんし」
「え、そうなんですか?」
「印象に残った花だけじゃ」
「そうなんですかー…」
「……」
「ちなみに仁王さんの誕生日の花は?」
「俺のは12月4日。サザンカ。花言葉は…」


途切れる会話。どうしたのかと仁王さんを見上げる。
仁王さんはこれまた切なそうに、苦しそうに、にっこり笑ってこう言った。







「ひたむきな愛、じゃよ――」







その言葉が、やけに耳から離れなかった。











仁王の言葉の続き⇒「しょっちゅう転んだりぶつかったりするが、そんなところが周囲からは可愛いと思われている」