昨日買った幸村さんへのプレゼントを鞄に忍び込ませる。幸村さん、喜んでくれるかな…とか考えると、頬が緩み「ふへ」と何とも気の抜けた声が出てしまった。…関係ないのだが、少し頭が痛い。















「起立!礼!さようならー」
「「「さようならー」」」


一気にざわざわと騒がしくなる教室。ついにやって来た!待ちにまった部活の時間だ!
――別に、昼休みとかに渡しても良いかな、と思ったのだが、昼休みや休み時間は幸村さんはプレゼントの嵐だろうと思ってどうせならば部活帰り、2人っきりの時に渡そう!と思ったのだ。
…あれだ。幸村さんのファンの子は……まぁ、まだ沢山居るのだが、みんなあたしの存在を知っているのでそういう目では見ていないと思う。あたしもそこまでは束縛をしたくないので、まぁプレゼントならおっけーだろう!と考えている。


!渡すんでしょ!?」
「うへ、渡すよ。帰り道に渡すんだぁ」
「頑張れよー!」


むぎゅううう、と抱き着いてきたのはあたしの親友のだ。もうそれさえも嬉しくなってあたしの頬は緩みっぱなし。勿論どきどきはする!だけれどそれよりも「、ありがとう」と微笑む幸村さんの姿を見たいのだ!


「うん、じゃぁ行って来る!」
「行ってらっしゃい!どうなったか聞かせてね!」
「うん、うん!勿論!」


行って参ります!と敬礼をすると、はにこにこして手を振ってくれた。うふふ、もう、スキップでテニスコートに行きたい気分だ!この時、一瞬ぐらりと世界が揺らいだのだが、多分それは気のせいだったのかもしれない。

校舎を出て、テニスコートへ向かう。ひゅう、と風邪が吹く。凄く、凄く気持ちの良い風だ!こう…春の匂いを漂わせるような風。本当、今日は素敵な日である。
そして校舎を曲がると、水道で水を汲んでいる優希さんを発見した。


「優希さん!こんにちは!」
「あらちゃん、こんにちは。…ところで、今日プレゼントあげるの?」
「ゆ、優希さん直球ですねー。はい、その、あげるつもりです!」
「――…そう、頑張ってね」
「はい!ありがとうございます」


…見間違い、かもしれないが一瞬苦しそうな顔をしたものの、すぐににっこり笑ってそう言ってくれた優希さんに「じゃぁ、着替えてきますね」と一礼をし、あたしは急いでジャージに着替える。
鞄の中には例のプレゼント。……むへ。
最後に運動シューズに履き変えるとあたしは急いで優希さんを手伝いに行った。…頭の中は、相変わらず幸村さんの事ばかり考えていたのだが。


































「全員集合!」


幸村さんの言葉に部員は勿論、洗濯場に居たあたし達も急いでテニスコートへ集まる。
……その、気にかかる事があるのだが…今日は幸村さんと1回も目が合わなかった。可笑しいのだ。いつもなら最低でも1回は目が合ってにこ、としてくれるのに……いや、もしかしたら今日は忙しかったのかもしれない!うん、きっとそうなのだ!


「今日の練習は此処まで。お疲れ様」
「「「ありがとうございました!!」」」


見慣れた風景。部員達はそれぞれ部室へと向かう。それは「ー!お疲れ!」とか言う赤也くん達、レギュラーの皆さんも例外ではない。
ぞろぞろと部室へ入る皆さん。――それに混じって、あたしの大好きな幸村さん。う、こっちへ、来る!…そして、幸村さんとばっちり目が合う。幸村さんはこちらへ歩いてくる。(ぎゃー!)


「あ、あの、幸村さん!今日も校門で待ってます!」
「――うん」


そして幸村さんは去って行く。…なんだ。今日は可笑しくないか?あたし、幸村さんを怒らせるような事をしてしまったのでは……あ!やっぱり昨日先に帰ってしまった事だ!うん、ちゃんと幸村さんに説明しなきゃ。幸村さんなら分かってくれる筈だ。「そうだったんだ」ってにっこり笑ってくれる筈だ!よし、頑張れ!
あたしは心の中でガッツポーズをすると、急いで着替えに行った。

































うう、幸村さんはまだか!「ー!またな!」と手を振るブン太さんも今のあたしには関係ないのだ!ああ、緊張する。口から心臓を吐き出せそうっていうのは多分この事だ。か、かかか彼氏に誕生日プレゼントを渡すのって、こんなに緊張するものなのか!…大丈夫だ、落ち着け、
そうこうしているうちに、幸村さん達が校舎から出て来るのが遠くに見えた。き、きた!頑張れあたし!頑張れあたし!
幸村さんはあたしを見つけると、隣に居た柳生さんに手を振ってあたしの元へ近寄ってきた。(多分、幸村さんで最後なのかもしれない。)


「ゆ、幸村さん!部活お疲れ様です!」


あ、あああ!!声、裏返った!ぎゃー!恥ずかしい!幸村さんは未だににこりとも笑ってくれない。…きっと声の裏返る女は嫌いなのだ。
ええと、これからプレゼントを渡して、それで「これを買って吃驚させたかったので昨日は先に帰りました。本当にごめんなさい」と言えば完璧だ!よし、頑張れ!


「あの、幸村さ――」
「何しとるんじゃ?」
「・・・っぎゃー!!」


にょきりと現れたのは仁王さん。な、くっそー!!何で仁王さんはこう、いい雰囲気を台無しにするんだ!


「仁王には関係ないよ」
「そうなんかの?」
「ああ。帰ってくれ」
「はいはい、帰りますよ――


険悪なムードぴりぴりの中、あたしは身動きが取れなかった。不意に、仁王さんがあたしの腕を強く引っ張る。突然の事にバランスが保てず、仁王さんに抱きついてしまう様な形になってしまった。「くっそー!何しやがるんですか!」とあたしが言うのと、仁王さんがあたしの顎を掴んでキスをしたのは同時だった。



「――……、」



何が、起こったのだ。







何で、こんな事になってしまったんだろう。



「――別れよう」



何処から、間違っていたのだろう。