「よーし優希さん、あとは部室掃除だけですね!」
「・・・ごめん、ちゃん!私今日はもう帰らないと…」
「あ、そうなんですか!分かりました!じゃあ私がやっときますね!」
「うん、本当にごめんね!じゃあ、また明日っ」


・・・という流れ、で。現在あたしは部室を掃除している。…練習、もうすぐ終わるよね。そ、その前に片付けなければ・・・!!















部室掃除、って何だか危険な雰囲気がしたのだが、流石は立海である。エロ本やらゴキブリやらにはまだ遭遇していない!こう、あたしのイメージでは「きゃー!こんなところにえろほんー!もう、いやだー!」とか言ってエロ本を捨てたり、「ゴキブリうわー!このやろー!」とゴキブリを追っかけまわすイメージがあったのだが、全然違う!
寧ろ掃除しなくても平気なくらい綺麗である。でもでも、頑張ってる部員のみなさまには綺麗な部屋を・・・!という事で、大して汚れてもいないロッカーや床などを雑巾で拭くあたし。そんな時キィ、とドアの開く音が聞こえた。


ー?練習もうすぐ終わるよー?」
「っゆきむらさん!」


ひょこ、現れる幸村さん。バンダナを外し、首にかけられたタオル。うわあ、ちょうかっこいい!


「あ、掃除中だった?」
「はい!でももうすぐ終わります!」
「手伝おうか?」
「いえ、大丈夫です!」
「そ?じゃあ、待ってるね」


にこりと笑い、そのまま後ろの壁に寄りかかる幸村さん。・・・待つ、って、此処でか!は、早く終わらせなきゃ!はずか、しい!
あたしはロッカーや棚を拭く手を早めた…のだけど、ち、ちんもく・・・!沈黙が痛い、のだ!何か喋らなければ・・・そう、だ!


「あ、幸村さん!そういえばあたし、幸村さんに誕生日プレゼント買ったんですよー!」
「・・・」
「・・・幸村さん?」
「・・・あ、うん」
「・・・当日には渡せなかったけど・・・、明日、持ってきますね!」
「ああ・・・うん」
「・・・幸村、さん?」
「ああ・・・うん」
「話聞いてました?」
「ああ・・・うん」
「・・・聞いてませんね!」
「ああ・・・うん」
「・・・」


・・・なん、だ。幸村さん、何か可笑しい。不安になって幸村さんを見ようと振り返ってみると、幸村さんは何かを深く考えた様に腕を組んで少し俯いていた。・・・どうしたんだろう。もしかしてあたし、また何かやらかしてしまったのだろうか・・・。あっ!もしかしてあたしのジャージ、お尻に穴が空いてるとか!?
そうだったら、恥ずかしい!うおう、、一生の不覚だ!あたしは慌てて首を捻りお尻を確かめた。――しかし、幸いな事にお尻に穴は空いてなかった。よかった。安心した!・・・あ、本題がずれた!じゃあなんで幸村さんは悩んでるんだろう・・・?


「幸村さん、あたし・・・また何かやっちゃったんでしょうか…?」
「いや・・・その、さ・・・」
「・・・はい?」


ようやく口を開いた幸村さんが、ゆっくりとあたしを見つめる。いつもとは違う、真剣な表情で。・・・・・・・・・どうしよう、かっこういい!ていうか、心臓が、もたない!うう、どきどきする・・・!
そして、幸村さんはゆっくりとあたしに向かって歩いて来る。・・・、ちょっと、怖い。


「ゆ、きむら、さん・・・?」


――ドンッ
目の前には、幸村さん。左右には幸村さんの腕。背後には、ロッカー。背中が、冷たい。
・・・な、なに、これ!こ、これは少女マンガのあれだ!壁に押し付けられて、キスされてしまう・・・・・・キス!?うう、なんだ!ちょう逃げたい!恥ずかしい!ていうか、幸村さんこんな人だったっけ!?





ちゅ、と。
や、音は鳴ってないけど。きす、された!やっぱりされたー!うわあ、どうしよう、逃げたい、そもそも、これは夢、だ!うわあ、どうしよう、どうしよう!
分かんない。1秒だったのか3秒だったのか10秒だったのかそれとも30秒だったのかも分からないけど、そっと幸村さんの唇があたしの唇から離れていく。


は、俺のだ」
「〜っ!?」
「俺の、彼女だ」


顔の熱は下がることを知らない。
こんな、幸村さん、初めてみた。いつもなら、こんなことしたら直ぐに照れた顔を隠すのに。今の幸村さんは、真剣な表情のままあたしをじっと見つめる。(心臓が、止まりそう、だ)


「・・・っ」
「俺以外と、キスなんてしたら許さない」


そして、もう一度幸村さんの顔は近付いてくる。も、もう、無理だ!
あたしは、ドンッと幸村さんの胸板を押し返す。油断していたのか、幸村さんは簡単にあたしから離れて行った。
もの、すごく恥ずかしくて。あたしは思わず唇をジャージの裾で覆う。


「ゆき、むらさん・・・どうしたんですか」
「・・・・・・」
「・・・・こわい、です・・・。」


なんか、分かんないけど泣きそう。うう、我慢、しろ!
すると幸村さんは不貞腐れたように「だって、」と呟いた。


「仁王とは、2回キスしたくせに・・・俺とは、1回しかしてなかった。」
「・・・え、」
「・・・・・・の彼氏は、俺・・・だろ」


・・・ちょっと、まって。
ま、まず仁王さんとは2回もちゅうなんてしていないし、いや幸村さんはあたしの彼氏だけど!
ていうか、ていうかこれって・・・


「やきもち・・・」
「・・・」


幸村さんは一瞬だけあたしを見ると、直ぐに視線を外す。すると「うん、そうだよ、悪い?」顔を少し赤く染めながら呟く。
・・・いつもの、幸村さんだ!


「・・・可愛い」
「・・・え?」
「かわいいー!幸村さんかわいいー!」
「・・・・・・。」
「ていうかていうか、あたしそもそも仁王さんと2回もしてません!1回、ですよ」
「え!?」


「え…、じゃあ・・・俺、勘違い・・・?」


途端に真っ赤に染め上がる幸村さんの顔。
うわあ、うわあ、じゃあ幸村さん、ずっとこのこと悩んでたんだ!なんか、申し訳ないけど、ごめんなさい、って言わなきゃいけないはずなんだけど、なんだか幸村さんがちょうかわいい!ううわあ、幸村さんでもやきもちを妬くんだ。


「・・・ごめん」
「あたしこそ、申し訳ないです!」
「・・・本当、ごめん」


・・・なんか、すっごい幸せ。よく分からないけどあたしは幸せだ。本当、幸村さんのこと好きになって良かったです――なんて言ってみたら、幸村さんはさらに顔を赤くして「あーもう、今はしゃべらないで、」と言った。
なんだかそれが物凄く嬉しくて、思わず「えへへ、」と笑うあたし。


そんな和やかな雰囲気にブン太さんが「幸村ー!?おせえよ!」とドアを開けたと思ったら、「あ、悪ぃ!」と言ってすぐにまたドアを閉めたのは・・・うん、数十秒後の話である。