「う、うう・・・う、ゆ、ゆきむらさあああんっぶんたさぁん、じゃっかるさんにやなぎさんにさなださんにやぎゅうさんににおーさあんっ」
、泣きすぎー!」
「だって、」
「そうだぜ!どうせ先輩達高校も立海だろ?全然平気じゃん」
「でも、なんか、悲しい・・・、」


ぽんぽんとちゃんに頭を撫でられながら、「今、わかれーのーときー」と前の席で歌う3年生の皆さんを見る。今日は、卒業式である。・・・やばい、なんかまた泣けてきそうだ。















「以上を持ちまして第128回、立海大学付属中学校卒業式を閉会いたします。一同、礼!」


その先生の挨拶が終わると、辺りはどっと騒ぎ出す。「つかれたー!」だとか、「ねみぃー!」だとか…大体は卒業式への不満の文句だったのだが。
あたし達2年生も立ち上がり、友達とはしゃぎだす人もいれば真っ直ぐに卒業生の元へ行き、泣きそうな顔でお別れの挨拶を言いに行く人もいた。


。幸村先輩の所行くんでしょ?」
「え、う、ん、」
「おう!じゃあ行っといでよ!」
「う、ん」


そしてかくいうあたしも卒業生の元へいく1人である!お別れの挨拶…、というのもあるのだけれど、あたしは未だ幸村さんに渡せていない物がある。そう、誕生日プレゼントだ。あの日、幸村さんにき、・・・きす、されてしまってその衝撃で暫く忘れてしまっていたので、なんかキリも良いので卒業式に渡そうかな・・・!と思ってる訳である。
ちゃんに「いってくる!」と意気込んでそう言うと、なぜか周りに居たクラスメイト達までもがニヤ!と笑った。・・・あの顔は、後でどうなったかを教えろ!という顔である。ちくしょう、そ、そんなやましいこと、なんてしない!
クラスメイト達に多少の不満を抱きながらもあたしは卒業生達がたむろっている前の方へと足を進める。うう、ドキドキするなあ・・・


「おー!ー!」
じゃのう」
「あ、ブン太さんに仁王さんっ!」
「俺もとうとう高校生だぜぃ!」
「〜っ、こうこう、せい・・・・・・ふたりとも、卒業しないでくださいー!」


いやですいやですー!と口にしながらあたしは2人のブレザーをぎゅ、と掴む。このまま卒業しないでくれれば良いのに・・・すごく、寂しい。
仁王さんはそんなあたしの頭にぽん、と自分の手を乗せ、ブン太さんはあたしの背中に手を回し少し屈んで「でもよ、部活では一緒だろぃ」と言うとニカ、と笑った。


「そういえばお前さん、幸村に会いに行くんじゃなか?」
「あ、そうなんですよ」
「幸村ならさっき、切原と・・・あ、優希な?一緒に外に出て行ったぜぃ」
「え、優希さん、ですか?」
「おう。・・・切原は違う高校行くからなー・・・」
「え、ほんとですか!?」
「頭良いからのう・・・推薦受けたらしい。」
「しかも氷帝からとか言ってたぜぃ」


ひょ、氷帝って言わずと知れたあのお金持ち学校・・・!?すごい、凄い優希さん!・・・ということは、優希さんがテニス部をやめるっていうことで、マネージャーもあたし1人で・・・?うわあ、それ嫌だ。凄いすごい寂しい!・・・でも優希さんだって悩んだ末に出した結論だろうし、あたしは笑顔で見送るべきなんだろうな・・・!


「分かりました…あたし、幸村さんのとこ行ってきます!」
「おーう、頑張って来いよ!」


手を軽く振るブン太さんと、ふわり、と優しそうに目を細める仁王さんを確認するとあたしは体育館の外へと向かった。







ブレザーのポケットの中に手を入れる。硬い箱の感触。よし、準備は万端だ。…なんかすっごくドキドキする。本当誕生日プレゼントとか今更なんだけども渡さない訳には行かないし・・・!
体育館の角を曲がって、数メートル先に見えた光景に、思わず息を呑むのと同時にあたしは近くの物影に隠れた。






泣いている、優希さんとその前に佇む幸村さんがそこには居た。





…なんだ、このシチュエーション!凄く、嫌な予感がする・・・。
かと言って急に出て行く訳にも行かず、あたしはそっと2人の会話に聞き耳を立てた。(決してストーカーしてる訳ではない!・・・多分)






「すき、」






どくん、と心臓が波を打つ。まるで呪われたようにあたしの体は固まった。






「好き、だったの、」
「・・・ああ」
「ずっと、ずっと、好きだったの」
「・・・ああ」
「1年生の頃…同じクラスになれて、それで、好きになった」
「・・・ああ」
「もう同じクラスになることはなかったけど…・・・多分、きっと、これからも、好き」
「・・・ああ」
「言いたかったの、…好き」
「・・・ああ」
「・・・、ーっ・・・つ、」
「・・・ごめん」
「う、ん」
「――ありがとう」





幸村さんは優希さんに近寄ると、ぽん、と仁王さんがあたしにしてくれた様に優しく頭の上に手を乗せた。
優希さん…幸村さんが好きだったんだ。今いち状況が飲み込めないのだけれど、なんだか泣きそうである。…あたしは優希さんの気持ちを知りもしないで平気で幸村さんの話して・・・優希さんを、傷つけてたんだ。ごめんなさい、って謝っても…それも違う気がするし、嫌味にも聞こえる。それに…なに、この感じ。いやだ、あたしこの場に及んで優希さんに嫉妬してるのかもしれない。最低な女だ、あたし。


「切原…俺、が凄い大切なんだ」


幸村さんの優しい言葉遣い。表情は見えないのだけれど、きっと微笑んでる気がする。――その恥ずかしいような言葉が凄く嬉しくて、涙が出て来てしまった。抑えていたのにみっともない。


「うん、知ってるよ・・・・・・ちゃんと、仲良くやってね」
「ああ。」
ちゃんをもう泣かせないでね」
「ああ。絶対に泣かせないよ」
「約束だよ」
「分かった」
「…・・・・・・、」
「・・・・・・・・・」
「――じゃあ、・・・さようなら」
「うん、さようなら」


最後ににこりと微笑むと、優希さんは幸村さんに背を向けて歩いて行った。
桜が舞う道を、あたしは走った。そして幸村さんの後ろからぎゅ、と抱きつく。


「うわ・・・?」
「――はい、」
「・・・・・・見てた?」
「・・・・・・見てないです」
「本当は?」
「見ました・・・」


幸村さんは はあ、と1つ溜息をつくといつもの様に手で顔を覆う。幸村さんの癖なのかな、照れた時とかに顔を隠すの。


「・・・ゆきむらさん」
「ん?」
「あたしも幸村さんが大切です・・・」
「・・・・・・うん」


数十秒幸村さんに抱きついたままその場にいて、我に帰って腕を離した時はもう穴を掘って埋まってしまいたいくらい恥ずかしかった。だって、あたしってば、幸村さんに抱きついてしまったのである・・・!うわあ、恥ずかしい!
そんな気持ちを紛らわすかのようにあたしはブレザーのポケットの中からあのプレゼントを取り出した。


「これ・・・ずっと渡しそびれてたプレゼントですっ!」
「え、俺に・・・?」
「はい・・・あの、要らなかったら――」
「い、要る!要るよ!・・・開けても良いかな?」
「あ、は、はい!」


かさかさと音を立てて包み紙を外して行く幸村さん。喜んでくれるかな・・・!なんか緊張と期待と緊張と緊張が入り混じって複雑な気分である・・・!
包み紙を全て外すと、幸村さんはまじまじとネックレスを見つめる。や、やっぱり気に要らなかったのだろうか・・・?
どんどん不安になっていくあたしを裏切るように、幸村さんは嬉しそうに頬を朱に染めふわりと笑った。


「ありがとう、凄い嬉しい・・・」


よ、よかった・・・!一気に安心したあたしも、幸村さんのその笑みにつられる様にして笑った。


の誕生日、いつ?」
「9月5日です!」
「そっか・・・じゃあ、その日は期待しててね」
「〜はいっ!」


嬉くなって更に笑みを深くさせるあたし。うう、楽しみだ・・・!幸村さんから貰ったもの、あたしなんでも大切にする・・・!
暫くはにこにこ状態だったあたし達なのだが、沈黙が・・・!悪魔の沈黙がやってきた・・・!なんだか心臓が持たない・・・、そ、そうだ!


「あの・・・HRあるし、もう教室に戻ります・・・?」
「・・・・・・、」


幸村さんはあたしをちらりと見ると、1歩ずつ近付いてきてぎゅうう、と抱きしめた。


「ゆ、ゆきむら、さん」
「・・・もうちょっとだけ・・・。」
「・・・・・・、はい」
「・・・あと、
「はい?」
「俺のこと、名前で呼んで」
「え、あ、な、名前!?」
「うん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・せ、せ・・・」
「・・・」
「・・・・・・・・・せ・・・せーいち・・・・・・さん?」
「…まあ、それでいっか」


すると幸村さんはあたしを抱き閉める力を緩め、にこりと笑って手を繋いだ。


「いこっか」


桜が舞う中、手を繋いでお互いを見て笑い合って、あたし達は歩きだした。