幸村さん・・・じゃなくて、精市さん率いる3年生のみなさんが高校にあがってからというものも、立海テニス部は春休みなんて関係なしに練習ばかり続けています。変わった事といえば・・・、優希さんがもういないのでマネを1人でやらなきゃいけないこと。それと、精市さんたちの練習場が・・・隣りのコートになって、見に行く暇もない、ということです。















「赤也くん、お疲れ!」
「おう、サンキュ」


赤也くんのにか、という爽やかな笑顔にあたしの顔もつられて笑顔になる。赤也くんはな、なんと、幸村さんの跡を継ぐ中学テニス部の部長だったりする。さ、流石である。最初は赤也くんで出来るのかな、とも失礼なことを思っていた(ブン太さん達も赤也くんをはやしたてていた)のだけれど、実際彼が「よし、全員集合!」と声をかけると・・・結構絵になったりする。赤也くんはもともとテニスも上手いし、部長にはもってこい!ということだ。


「なんか今日は早めに練習終わるってさ」
「え、どうして?」
「あれだろ、合宿のこと!高校と一緒に説明するんだと思うぜ」
「うわあ、合宿・・・!」


そういえば、春休み合宿・・・!もうそろそろだ。高校と合同、ということが凄く凄く嬉しい。そりゃあ遊びに行く訳でもないし、幸村さんの練習姿も見れないかもしれないけれどやっぱり合同ということがとても嬉しい。今から思うだけでも顔が緩んでしまうくらい楽しみである。


、合宿でのマネ大変だと思うけど頑張れよ!」
「うん!赤也くんも部長頑張ってね!」
「おう!幸村ブチョーを越えてやるぜ!」
「精市さんは超えられないよ!だって精市さんが一番だもんー!」
「それは、お前だけの価値観だよ」


そういって赤也くんはあたしの頭に手を置いてにやりと笑う。ああ、ジャッカルさんや柳さんもこんなことしてくれたな、なんて思うとやっぱりしんみりしてしまうのであった。










* * *










「ええと、今日はこれで中学の練習終わるけどー、合宿について説明があっから高校のテニスコートにすぐ集合な。じゃあ解散!」
「「「ありがとうございましたー!」」」


こう・・・、この挨拶をやられてしまうと、どうしても精市さんが頭の中に浮かんできてしまう。精市さんもかっこよかったな・・・「お疲れ様」ってにっこり笑うもんだからこっちは疲れなんて吹き飛んでしまうのだ。
そんなことを考えている間にもどんどん部員のみなさんは高校のテニスコートへと向かう。あたしもその群れの後ろの方に加わり、テニスコートへと向かったのであった。







「よし、全員揃ったな。今から合宿について話をする。」



部員の前に佇む監督は、列ごとに合宿についてのプリントを回していく。あたしはその列から外れ、独り寂しく部員のみなさんの後ろの方にいたりする。なんだか物凄く疎外感があるのだが・・・此処からは精市さんや仁王さんが見えるので良しとしよう。

・・・、そういえば、高校の方のマネージャーはどうなっているのだろうか。見たところ、あたし以外はそれらしき人が見当たらない。もしかすると、まだ高校のマネージャーは居ないのかもしれない。昨年まではこれまた綺麗なお姉さんがみなさんにタオルを配っていた場面を見たのだが、あの人が3年生だったとしたら今はもう大学生の筈だ。うーん、ということは部員のみなさんでマネの仕事を分担しているのかもしれない。


「期間は例年通り3泊4日。宿泊地も去年と変わらない。だが、今年は氷帝学園と合同で合宿を行う。練習は勿論のこと、宿泊地や食事の際も同じになると思う。相手はライバルだ、という面をしっかり理解し練習に励んでほしい。後日詳しい事を連絡する。マネージャーは残るように。では解散」


監督の「解散」の言葉を合図に「ありがとうございましたー!」と頭を下げるみなさん・・・うおお、凄い。中学と高校の部員が居るのだから、いつもの倍以上、凄い!そんなことをひしひしと実感しながらも監督の元へかけ足。・・・、監督はいつも仏頂面なので怖いったらありゃしないのだが、今日のあたしは何も悪い事をしていない、はず・・・!!こ、このやろーである。言いたいことがあるなら言ってみろ、だ。


「か、か、監督、なんでしょう」
「ああ。合宿でのことなんだが・・・見ての通り、今は中高合わせて”実質上”しかマネージャーが居ない。」
「・・・、あの、実質上って・・・?」
「実は中学にもう1人マネが居るんだ。丸井勇気。と同じ中3だな」
「まるい、っていうことは・・・ブン太さんの弟さんですか・・・!」
「ああ。だが丸井は練習に半年以上出ていない。だから実質上はだけなんだ。それで、合宿では流石に1人ではキツいだろう?だからが思う、マネージャーにふさわしい人物を探してほしいんだが・・・」
「あたしがですか・・・!分かりました、探してみます!」
「すまないな。では頼んだ」
「はい!」


ふおお、さりげなく重大なことを頼まれてしまった・・・!っていうか、勇気くんマネージャーだったんだ・・・!丸ブン太さんの弟だからテニスプレーヤーだとすっかり思っていた。・・・で、マネージャーにふさわしい人・・・っていうと、やっぱりちゃんとかその辺りだろうか。…うん、なんかちゃんマネージャーとかうまそうだしなあ。ちゃんに頼んでみよう!
そう決意を固め、あたしも着替えるか・・・!と更衣室へ向かおうとすると、不意に誰かに後ろから目を隠される。


「だーれだ!」
「丸井さんですねー!声で分かります、よ・・・っ!?」


少し吃驚したものの、この声は間違いなく丸井さんである――筈なのに、明るくなった視界の目の前にいたのは丸井さんと仁王さん。・・・ていうことは、あたしの今後ろにいる人は・・・


「残念。俺でした」
「せ、精市さん・・・!」


にかにかと少し意地悪く笑う精市さんだった。


「なぁ、が今呼ばれてたのって・・・マネージャーの事じゃろ?」
「よく分かりましたねー!そうなんですよ。ちゃんに頼もうと思うんですが・・・、」
「んー・・・でもその子、マネ経験ないんだよね?ちょっと大変なんじゃないかな?」
「はい・・・でもちゃんくらいしか思いつかないんですよね・・・」
「あー・・・、じゃあ、俺の弟引っ張ってくるよ!」
「勇気さん、ですか!?」
「おう。半年前まではマネやってたし。合宿だけで良いから!って言って引っ張ってくる。」
「ああ。それが良いんじゃない?」
「まじですかー!」
「おう!任せとけ!」


そう言うとブン太さんはにかり、と笑ってVサインを作ってみせた。なんだかブン太さんが頼もしい・・・!


「なぁ。あと1人くらい居た方が良いんじゃなか?」
「そうだな。高校も合わせてだからね」
「でも経験者なんてもう居ないよなぁ」
「・・・俺の弟。サッカー部のマネ経験あるぜよ。頼んでみるか?」
「におーさんの弟ですか!?うわあ、そういえば聞いたことあります!」


普段から仁王さんの噂も耐えないのだが、それと同じ位噂がたっているのが仁王さんの弟である。弟さんもたしかあたしと同学年な筈なのだが、何分あたしはそういう噂に疎いし中学3年生でもかなりの人数があるので、ちょろっと噂で聞いたことがあるだけだった。


「うん、それが良いんじゃないかな?あー・・・、でも女子1人になっちゃうけど平気?」
「あ、はい!平気ですよ!話相手は居ないかもしれないですけど、全然平気ですっ!」
「何言ってんだよ。俺達が居んじゃん。な!」


「うん、そうだね」「当たり前じゃろ」そうにこにこ微笑む精市さん達が、とても頼もしく思えた。
そしてあたしもその笑顔につられて笑うと、3人は優しく頭を撫でてくれたのであった。