合宿が近付くにつれ、どんどん合宿に向けての打ち合わせが進む。スケジュールや夕食の時間、何から何まで把握しなければならないマネージャーは大変だ。だけれどもやっぱりどきどきしてしまう。そしてついに今日は3泊4日の合宿当日である・・・!期待や不安が入り混じる中、一番の気がかりは勇気くんと仁王さんの弟さんとはまだ話したことがない、ということである・・・!時間がすれ違ったりしてしまって、結局今の今まで会うことが出来なかったのだ。















「ふいー!」


テニスコートに着替えやその他もろもろが入った鞄をどすんと置き溜息をつく。今日は町に待った合宿当日である!
幸村さんには一緒に行こう、と誘われたのだが、あたしはマネージャーだ。朝早く来てドリンクの粉や色々用意しなければならなかった。(幸村さんの誘いを断るのに思わず泣きそうになってしまい、幸村さんが苦笑しながら頭を撫でてくれたのは言うまでもない)
とりあえず、備品のチェックからしようかな・・・!そう思い、部室へ歩き出すと同時に不意に背後から聞こえる声。


「よっ。」
「――ッ!?」


だ、誰だ!?
急に飛び上がった心臓を押さえながらも、恐る恐る後ろを振り向く。


「マネは7時半に集合だろー!?」
「朝から大声出すな勇気。頭ガンガンする」
「お前本当低血圧だもんな」
「っ、ゆ、勇気くん、!?」


鎖骨に届くか届かないくらいの黒髪。癖っ毛なのか外側へ中側へとあちらこちら曲がっている。だけれどその目はまさしくお兄ちゃん似である。・・・強いていうなら、ガムを噛んでなくて髪が黒くてちょっと伸びたブン太さん・・・!この人が、勇気くん!


「お前、だろ!俺丸井勇気。聞いてると思うけど合宿の間だけマネ復活なりー!」
「よ、よろしく・・・!」
「俺は仁王真。俺も合宿の間だけだけどよろしく」
「まことくん・・・っ!よ、よろしく!」


無表情でそう言う彼は、仁王さんと何処となく雰囲気が似ている。
ただ仁王さんとは違い、短髪で髪を立たせていて黒髪、しかもピアスを右耳に2つ程していた。ふおお・・・!噂に聞くだけのいけめん、だ!少し垂れ気味な切れ目がこれまた彼を引き立たせている。勇気くんと並ぶと更に2人のランクが上がるような気がする・・・!


「あたし、は、です!」
「おう。知ってる。なんか有名だもんお前!」
「え、ゆうめい!?」
「幸村先輩のこと。」
「う、ああ・・・、・・・、――っあ、ま、マネの仕事しよっか!部員のみなさん来ちゃうし!」


やっぱりあたしが幸村さんをストーカーみたく付回していたことは広まっていたんだ・・・!
そう思うとなんだか恥ずかしくてやりきれなくなって、話を変えようとわざと明るい声を出してみる。だけれども、


「やっぱお前って、兄ちゃんが言ってた通り頭撫でたくなるな!可愛いー!よしよし!」


勇気くんはそういってあたしの頭を乱暴に撫でた。
・・・そして気付けば、真くんもふむ、と首を傾げたあとゆっくりあたしの頭を撫でていた。
















* * *















「あ、精市さんっ!おはようございますー!」
「おはよう」


荷物もバスに積め終わったところに精市さん達が登校。
精市さんはいつも通りにこ、と笑いあたしに挨拶を返してくれた。


「今日から4日間、頑張ろうね」
「はい!あたし応援してますよー!」
「それは、本気で嬉しいかも・・・、俺も、を応援してるから」
「〜!」


ああ、精市さんはやっぱり今日も素敵だ!
少し照れながらも言葉を紡ぐ精市さん。あたしはこの笑顔を見るために今日やってきたのだ!とまで思ってしまう。


「用意が出来た者からバスに乗り込め」


その後ブン太さんや柳さんを交え雑談をしていると、監督の声が聞こえてきた。
その指示を聞くと部員のみなさんは次々とバスに乗り込んで行く。勿論全員同じバスには乗り切れないので学年ごとに別れている。・・・・・・べ、別にバスの席は幸村さんの隣りが良かった!だなんて決して思っていない!断じて思ってなんかいない。
勇気くんに呼ばれながらも、仁王さん達に「またあとで!」と挨拶をする。そして3年生のバスに乗ろうとした瞬間――ぐい、と思いっきり腕を引っ張られ、あたしの体はバランスを崩し数歩後ろへ下がってしまった。


「・・・が居なくて寂しい」


その声の持ち主はやはり精市さんで、ぼそ、とあたしの腕を引っ張ったまま拗ねた様に呟いた。


「ば、バス席、・・・隣りが良かったですね」


突然のことに耳を熱くさせながらもやっとの思いであたしもその言葉を呟く。――その時、精市さんの顔がいきなりドアップになる――や、やられた!この感覚は紛れもない、ちゅーである!う、おお・・・!人が見てなかったのが唯一の幸い、だ!


「これで我慢」


精市さんはにかりと悪戯っぽく笑うと、あたしの頭を軽く撫で自分のバスへと乗り込んでしまった。


・・・合宿――というより精市さんには、やっぱりどきどきしてしまうあたしだった。