むう、此処が合宿場・・・!超広い・・・!
そして幸村さんたちのバスはまだなのだろうか。どうやら、あたし達中学生のバスが先に着いてしまった様なのである。


「っちな!?」


数年前よりは少し低くなった、だけどしっかり聞き覚えのある懐かしい声が聞こえてきたのはそんな時だった。















「っちょうたろー!」


声のする方を振り向けば、随分と驚いている様だがにこにこと笑う長太郎の姿があった。
その顔は暫く会わなかった間随分と大人びていて、元々高い身長も更に伸びた様である。


「っ・・・?本当に、?」
「うん、お久しぶり。あたしテニ部のマネになったんだ」
「知らなかったよ。凄く驚いた。それよりも随分と変わったんだね。一瞬誰だか分からなかったよ」
「えへへ、色々あったんだー」


まじまじとあたしを見つめる長太郎にへらりとした軽い笑顔を向けると長太郎は照れた様に笑い返してくれた。
長太郎はあたしのお母さんでもあり先生でもある!
あたしが転んで涙ぐむと「よしよし、何処痛いの?」と言いながらおんぶしてくれたり、迷子になってしまった時は必ず”もう1人”と現れてあたしの手をぎゅっと握ってくれた。
そして、「いつか恋した時に・・・『短く笑って長く泣く、これが恋の習い』」と教えてくれた人である。(この言葉のおかげで此処まで来れたようなもんだ!)


「若は?」
「居るよ。あいつ部長だから、指示出してる」
「うわー!凄い・・・!若がぶちょー・・!」
「俺と争奪戦だったんだけどね。『お前は優しすぎる』って跡部さんに言われちゃったんだ」
「『あとべさん』・・・?」
「ああ、去年の部長。高1として合宿に参加してるよ」
「あ、じゃあ精市さんが言ってた人かな・・!」
「『せいいちさん』・・・?」
「へへ・・・精市さんは、あたしの大切な人!」


どうだ、羨ましいだろう!
胸を張って偉そうにえばってみると、長太郎は「へぇ」と一言漏らしただけだった。その反応になんだか不満を覚えむっとすると長太郎は慌てて「凄いね」と付け加えた。


「若もが来てること知らないからすっごく驚くと思うよ」
「うんっ!」


相変わらずにこにこと笑顔を振りまく長太郎は、 「じゃあまた後で」と言うと走って向こうの方へと走って行ってしまった。
うおう、精市さんのこと、紹介してしまった・・・!なんかこういうのすっごいドキドキする・・・!こう、むずむずして「精市さん大好きですー!」と叫んでしまいたい衝動に駆られる・・・!


「あ、発見ー!高校のバス到着したぜ!」
「あ、勇気くん。今行くー!」


あたしって本当幸せなんだな、ってつくづく思っちゃったり。

















* * *
















「みなさん始めまして。立海の高校の部長、白金徹です?」
「氷帝の部長、滝口裕也、です、よ、よろしくおねがいします!!」


あちらこちらから「白金部長相変わらず無表情ー!」だとか「滝口ブチョ固すぎー!」という声が聞こえて来る。
前に出た2人の部長、白金さんと滝口さんは一礼をするとがしっと握手を交わした。


「えーと。合同合宿、お互いが更にレベルアップ出来たらいいなーと思います」
「こ、こここここれから4日間頑張りましょう!」
「じゃあ、副部長とかマネとかも自己紹介。」


白金さんがそう言うと、あたしの隣りに居た真くんと勇気くんが立ち上がる。あたしもワンテンポ遅れて立ち上がり、前へと進み出る。
ふおお・・・!こりゃあ凄い!かなりの人数がいる・・・!軽く500人は超えて、600人くらいは居そうだ。な、なるほど。流石にこの量はあたし1人では到底無理である。


「立海の高校の方の副部長、幸村です。よろしくお願いします。」


ゆ、ゆきむらさん・・・!!
幸村さんってば超素敵だ。相変わらず素敵だ。何処に居ても素敵だ・・・!
その顔はにこり、と綺麗に微笑んでいるものの何処か威厳を感じさせるものがある。
幸村さんは異例の1年生での副部長。今までにこんな事はなかったと言う。だけど幸村さんはそれ程の資質が十分あるということなのだろう・・・!うう、やっぱり素敵だ!
そしてその後に赤也くんが挨拶を軽く済ませる。今年の中学のテニス部には副部長はいない。その代わりと言ってはちょっとアレなのだが、あたしが赤也くんをサポートしてたりする。


「丸井勇気っす。頑張りまーす!」
「仁王真です。何かあれば声を掛けてください。」
です・・・!せ、精一杯頑張りますー!」


ぺこりと頭を下げれば拍手が返って来る。うおお、凄い拍手の量だ・・・!そうだよね、これだけいたら凄い拍手になる訳だ・・・!
そしてあたし達の次は氷帝のみなさんの自己紹介タイムである。氷帝の高校の方の副部長、と思われるなんだか偉そうな人は1歩前に踏み出た。


「氷帝学園高等部テニス部副部長の跡部です。この4日間手を抜くつもりはありません。よろしくお願いします。」


そしてこれまた凄い量の拍手。っていうか、この人、凄い・・・!『氷帝学園高等部テニス部副部長』をさらりと言ってのけたっ!何処かで転んでも良いのに、すらすらと喋っていた。ひょっとして練習でもしていたのだろうか。いや、きっとそうに違いない。見かけに寄らず結構シャイな人なのだ。何だか丁重に扱ってあげなければいけない気がしてきた・・・!
そして跡部さんの隣りからすっと出て来た人物。一瞬見た途端、時間が、止まった。


「高校と中学、両方のマネをやってます。――切原、優希です。よろしくお願いします」


ゆうき、さん・・・!!!
うわあ、なんだ、うそ、ほんとうか!あたしの頭の中でいろんな言葉がぐるぐると行きかう。何だか凄く嬉しい!そうだ、確か優希さんは氷帝学園に推薦を受けたと言っていた!うわあ、優希さんだー!
思わず目が合って心の底から嬉しくなるあたしに、優希さんはにこり、とあの時の笑みを返してくれた。


「中等部の部長、日吉若です。よろしくお願いします。」
「副部長の鳳長太郎です。お互いベストをつくして頑張りましょう!」


うお、若だ!長太郎だ!
長太郎もなんだかんだ言って副部長なのだ。すごい、すごいじゃないか!
若はあたしの方をちらりと見やると、凄く色々言いたそうな顔をしてふい、とそっぽを向いた。あたしも若といっぱい話したいことがある・・・!あとで、ゆっくり話そう!
そんな考えをもったあたしが、解散の合図と共に「若!」と呼びとめたことは言うまでもないだろう。








(なんで名前呼び捨てなんだよ・・・、)