あたしと長太郎が出会ったのは何年前だったのだろうか。気づいたら隣にいるのが当たり前になっていたし、そんなこと気にしたこともないので明確には分からないのだが幼稚園から一緒だったことは確かだったと思う。多分。
小学生になって向かいの家に若が越して来た。あの頃の若(今もかもしれないけど)は人見知りが激しくて激しくて!あたし達でも手を焼いたもんなのだから相当である。むふん。


小学生のあたしは長太郎と若にべったりで、同性で友達を作ろうとしなかった。元々あたしは内向的だったのだ。
これは流石にやばい、と感じた両親が無理矢理あたしを立海に入れた。もちろん当時のあたしは泣いて嫌がったが親に敵う訳もなく撃沈だ!・・でも、そのおかげで精市さんと出会えたようなものだから結果オーライである!・・うふふ。


当然のごとく若と長太郎と共に氷帝で通うつもりでいたから2人も相当驚いたらしい。何たって知らされたのは入学3日前だ!信じられない!
家はご近所同士と言っても中学に入れば会う機会は少なくなり、今に至る。お互いこうやってゆっくり顔を見合わせるのは実質3年ぶりだ!



「ふぅ・・」
ちゃん、あと少し!ファイト!」
「はい!ファイトー!」


優希さんに応援されれば力がもりもり・・!久しぶりに会った優希さんとはそりゃあもう話したいことが沢山あったのだが、それは夜ね。と釘付けされてしまった。驚くことに、だ!あたしと優希さんは一緒の部屋らしい。嬉しすぎる・・!

そして現在、練習が開始して数時間が経過したのだが、なんというか・・全部で部員が500人以上居るのだ。流石にマネージャーが4人居るとは言え、手が回る訳ではない。そこで宿舎の人たちが協力してくれ、ドリンク作りや食事の用意は宿舎の人、洗濯やその他雑用があたし達の仕事となった。
ただ、半端ない。1回に出されるタオルの量が、半端ない。幸い宿舎には大きな洗濯機があったので今のところ間に合っているのだが、これから4日間大丈夫かは・・心配である。


「もう6時ね・・そろそろ終わると思うから、タオル用意しておこうか」
「はい!了解です」


500÷4で125・・1人あたり、125人にタオルを渡さなくてはならない。早業だ。と言っても、皆さん親切で自分からタオルを取りにきてくれるのでそんなに苦労はしないのだが。ちなみにドリンクは各自取りに行くことになっている。

相変わらず優希さんの読みは正しく、数分後に「集合!」という声が辺りに響いた。ふむ、タオルを渡すのは部長の話が終わってからで良いみたいだ!


「みんなお疲れ。この後は各自着替えて1時間後に食堂。詳しいことは夕飯のことに話しまーす」
「ち、ちなみに部屋割りは各フロアに張り出してあります!えっと・・、2階が立海、3階が氷帝生です!」
「それじゃあ、全員、礼!」
「「ありがとうございましたーっ!!」」


うう、痺れるなあ・・!こう、ビシッとしていてキめるとこはキめる、みたいな雰囲気がかっこういい!
そしてすかさずあたし達は、「お疲れ様です」と声をかけながらタオルを配り始める。精市さんに配れたら・・配れたら良いな!なんて思うけど無理そうだ。わ、わがままは言わない!うん!


「お疲れさまでした!」
「おーサンキュー・・あ、お前」
「はい?」
「えーと・・・・?」
「あ、はい!です!」


このジャージ・・この人、氷帝のレギュラーの人だ!それにしても名前を覚えていてくれたなんて・・う、嬉しすぎるじゃないか!このやろう!


「俺、宍戸ね」


タオルを首にかけ、にかりと笑う宍戸さん。くそう、眩しい!爽やかである。あ、勘違いしないでいただきたいが、勿論あたしの一番は精市さんだ!


「はい、宍戸・・さん?」
「『宍戸さん』って・・なんか長太郎と被るな。別に良いけど」
「じゃあ・・宍戸先輩!」
「うん、そっちのが良いな!」
「了解です、宍戸先輩!」
「おう!よろしくな!」


宍戸先輩は嬉しそうに笑うと、いきなりあたしの被っていた帽子を深く下げてきた。宍戸先輩の押し殺すような笑い声が聞こえる。ま、前が見えない・・!そして両手にタオルを持っているから自分じゃ直せない・・!って、タオル!早く皆さんに渡さねば!


「じゃあ宍戸先輩!また後でお会いしましょうっ!」
「・・えっ!?ああ・・またな・・って、おい!」


最後に宍戸先輩が「こっちこい!直してやっから!」と叫んでいたような気がしなくもないのだが、やはり優先すべきはマネージャーとしての仕事!
ぎりぎりで足元だけは見えるのでそれを頼りに皆さんに配っていく。
途中でタオルを受け取った若が、「ばーか」と言いながらあたしの帽子を上に戻してくれた。むっ!あたしはバカじゃないぞ!と反論しかけたのだが、若があまりにも可愛いく笑っていたので水に流してやろうじゃないか!
でも「あたし若の笑顔、好きだなあ」と言うと、「ばーか」とまた帽子を深く下げられたので次会ったときに反論してやろう!とあたしは決心した。