「おー赤也。こいつ、新しいマネのって言うんだぜぃ。」
「知ってますよ。さっき自己紹介してたし。っていうか元から知ってたし」
「あ、えと、切原…くん?どうぞっ!」


相変わらず背中に乗っかっている丸井さんごと体を捻って切原くんの方を向き、タオルとドリンクを渡す。


「え…うわ、ありがとう(こんな丁寧に渡されたの初めて…)」
「どういたしましてっ、切原くん!」
「…俺達タメだよな?切原君じゃなくて赤也って呼んでいいぜー」
「え、あ、は!?名前呼びですか!?」
「俺もお前の事って呼ぶからさ」


なななななな名前呼びだとぅ!?呼び捨てだとぅ!?切原くん男の子じゃないですか!あたし自慢ですけど男の子で呼び捨てとかやったことない!隣の家の某一発入魂野朗でさえも”くん”付け、なのに!?
そそそそそんないきなり無理ですよ!、と断ろうとすると、「駄目だった?」だなんて上目遣いで見られてう、うわー!


「駄目だなんてそんな!」
「じゃぁ、名前呼び決定な!呼んでみて!」
「え、あ、あかや………?」
「…ん?」
「………くん、」


駄目だー!あたしになんか呼び捨て無理だーっ!
丸井さんはそんなあたしを見て


に無理させんなよー可哀想だろぃ」
「えー。丸井センパイには関係ないじゃないッスかぁ!ジャッカル先輩もそう思いますよね!?」
「え!?あ、おう」
「…こんな意地悪な赤也とか気にしなくてもいいからなー
「え!?あ、はい」
「えー。呼び捨てで呼んでくれないの?」


哀しそうに赤也くん(とりあえず、くん付けでっ!)が言うもんだから、あたしは「あ…じゃぁ、練習しとく、ね?」と赤也くんに言った。


「(か、可愛い…)じゃ、じゃぁ俺も呼び捨てで呼べ!先輩命令っ!」
「(かわ、いい…)え、な、何スかそれ!丸井センパイせこい!」
「俺は先輩だから良いの!」
「おい、落ち着けよ2人共…」
「(丸井さんも!?えと、確かぶ、ぶ、ぶんた?ぎえー!恥ずかしい!)」


赤也くんがグチグチと丸井さん…じゃなくて、ブン太さん…?、に向かって文句を言って、ブン太さんもそれに反論して、それをジャッカルさんが宥めようとして普通にスルーされてて…あたし、ドリンクとタオル、渡さなきゃ…とか思う訳なんだけどブン太さんは相変わらずあたしの背中の上に乗っているので動こうにも動けないのだ。
「あの、その、あたし、ドリンクを…」と言ってみるものの3人の声にかき消されてしまう。くっそー…今に覚えてろ、だ!いつか3人を「あ、様!ごきげんよう!」とか言わせてやる!

そんな事をもんもんと考えているといきなり背中の重みと温もりが消える。同時に丸井さんが勢い良く地面に叩きつけられ、赤也くんとジャッカルさんの顔が真っ青になる。(あれ、これって…もしかして…)


「早めに終わって様子を見に来たらコレだ。ちゃん困ってんだろーが!あぁん!?」


あ、赤目優希さんの君臨だー!!


ちゃん。さ、他のレギュラーに渡してきて良いよ」
「ゆ、優希さん…ありがとうございますっ」
「ううん、いいのよ?さぁ…早く……


あたしは勢いよく駆け出した。後ろを見てはいけない…!決して見てはいけないのだ!見ざる聞かざる言わざる、だ!


「あの、えと、こんにちわ!遅くなってごめんなさいっ!ドリンクとタオルです!」
「あぁ、ありがとう」
「(投げられ…ない?)あ、ありがとうございます…」


2人で会話をしていた柳生さんと柳さんに向かって走って行き、先ほどと同じ様にドリンクとタオルを渡す。
柳さんは普通に受け取ってくれたが柳生さんはちょっと戸惑っていたみたいだ。何故だ。あたしが気に入らないのか。


「マネージャーは…何かと大変だと思いますが頑張ってくださいね」


にこ、と笑ってあたしの頭を撫でる柳生さん。う、嬉しいんです!嬉しいんですけど!けど!あたし…さっきから頭撫でられすぎな気もする。……気のせいか。うん、きっと気のせいだ!
「えへへ、ありがとうございます」と返事を返すと ぽんぽん、と頭を叩かれた。や、優しい…!!!何かまるでお兄ちゃんの様だ…!


「まぁ、無理はしないようにな」
「(や、優しい…!)はい!がんばりますっ!」


涙ちょちょぎれますよもう!
柳さんってどっちかっていうと怖いイメージがあったのだがアレは間違いだった!柳さんってば柳生さんなみに優しい。素敵だ!


「ではお2人共頑張って下さいね!」
「(妹みたいだなぁ…)はい。さんも頑張ってください」
「(妹みたいだ…)あぁ」


今のあたしは俗に言う笑顔ひゃくぱーせんとだ!幸せだ!


…別に忘れてた訳ではない。避けていた訳でもないのだ……ないのだ、が!!自然と最後になっってしまったのだ!本当だ!近寄りたくなかった訳では決してない!別に先ほどの「幸村の女じゃったら特にな…クフフフ!」発言を気にしている訳ではない!

あたしは、ちょっと重い足取り……違う。とてもるんるんスキップで水飲み場で顔を濡らしている仁王先輩の元へと向かった。