彼女の笑顔は誰のモノ




るん、るるん♪

足取りはとても軽く、スキップ。

鼻歌を歌いながらタオルを抱えている姿はコートからの熱い視線を浴びている。

(((((((((な、なんて可愛い・・・・・・・))))))))

レギュラー&準レギュラー達は悶えて既に練習にならない状態。

ボールは明後日の方向へ飛び、練習している平部員の頭にぼこぼこ当たり

果てはラケットまで飛んで何本もダメにし、あっちこっちで眩暈を起こすモノまで。

その後ろに気を使ってボトルの入った籠を運んでいる1年生に関しては睨まれている。

((((((((てめえら、俺のに近づくんじゃねえ!!))))))))

親切心が仇になりそうだ。

センパイ、ここに置いておきますね。」

「はい。みんな、どうもありがとう!」

下級生にもぺこりと頭を下げてにっこり微笑むと秋なのに周りだけ春になったよう。

鬼より怖いレギュラー達に睨まれても、この笑顔で全てチャラだ。

コートからの怨念が更に強くなっても。

はそんな様子も気に止めずとびっきりの笑顔でコートに向かって大きな声を出した。

「みなさーん!休憩の時間ですよ〜!!」

の一声にレギュラー達はとんでもない速さで駆けてくる。

しかも、お互いに肘で押し合い体で押し合って。

「忍足、お前はゆっくりして行け!」

「そういう跡部ものんびり歩けば良いだろ!」

「宍戸さん!こんな時にテレポートダッシュを使わないでください!」

「くそくそ、もっと飛んでミソ!」(意味はない)

「がっくん、邪魔やさかい飛ぶんならあっちでやってや!」

「ふふふ、例えレギュラーから落とされてもこれだけは譲らないよ。」

「ウスウスウスウス・・・・・・。」(皆さん、邪魔しないでください。)

その後ろから溜め息をついて巻き込まれないようにゆっくり歩くのは日吉だけ。

「気持ちがわからなくはないが・・・・・・醜い状態だ。下克上する気も失せる。」

平部員達はもう呆れてこの連中に自分達は本当に憧れているのかわからなくなる。

辿り着いた順番から一応一列に並んだが1番前の宍戸以外はとても不満そう。

(てめえ、部長の俺様を差し置いて前に立つとは。)

(こんな時に一番になってどないすんねん。)

(ずるい・・・・・・自分の特技をフルに生かしてるっ!いくら宍戸さんでも・・・・・)

(俺がもっと早く飛んで行ってたらなあ。絶対に前だった!くそくそ。)

(はああ、いつもみんなに負けるんだよね。穏やかに走ってくれたらいいのに)

(ウス・・・・・・・。)

(アンタ達、本当にみっともないですよ・・・・・・後輩に譲れよ。)

並んだ順に不満が積もっている。

しかし一人一人に蕩けるような微笑みを浮かべて労りの言葉をかけているを見るだけで一気に機嫌が良くなった。

日吉に回してしまうと籠に残った一つのボトル。

はきょろきょろと辺りを見回して首を傾げた。

あまりの可愛さにドリンクが口から漏れるほど悶えている。

「あれえ・・・・・・ジローくんがいない。またお昼寝かな。」

「ジローならいつものことだろ、放っておけ。」

「せや、そのうち出てくるって。」

「でも、ドリンク水っぽくちゃうよ。それに具合が悪いのかもしれないし。」

「ジローに限ってそれはねえって。」

「そうそう、その辺に転がって寝てるから。」

「風が冷たくなってきているし寒くて震えてるかも。」

センパイ・・・・・・なんて優しいんですか・・・・・・。」

「やっぱりは気遣い上手だね。」

「ウス。」

「ジローくん、大丈夫かなあ・・・・・・いつも突然寝ちゃうから心配だよね。

寒いところにいて風邪ひいたらどうしよう・・・・・。」

そこでレギュラー達が考えたのはジローの心配ではなかった。

((((((((ああ、俺も(センパイ)に心配されたい・・・・・・))))))))

だからといって、慈郎のようにその辺で眠る気にはならない。

同じ事をしたら十中八九、変人扱いされてしまうだろう。

しかしもうすでに、氷帝レギュラーはストーカー'ズと影で呼ばれているとは誰も知らない・・・・・・。

の姿が見えただけで1キロ先からでも授業中でも走り出し、声をかけなければ気が済まない。

他の男がラブレターを送ろうとすればが受け取る前に返り討ち。

お呼び出しなど伝わるはずもなく、二度とに近づく勇気など起きなくさせられる。

校内中で有名になっているにもかかわらず、はのほほんとしているために全く知らない。

そんなが慈郎のことを心配してぼーっと考え込んでいる。

はっきりいってこれほど面白くないことがあるだろうか。

明らかに不満げな顔でを見つめている。

「ん、みんなご機嫌悪いの?」

ににっこりと微笑まれて微笑み返せない男などこの世に存在しない。

全員がだらしなく頬を緩め、目はハートマークになってしまった。

、お前が笑っていれば俺は機嫌がいいんだぜ。」

さりげなく肩を抱こうとした跡部の手は軽く払われる。

ちゃんの傍にいて機嫌が悪くなるはずないやろ?」

の髪に触れようとした忍足の手の甲は抓られて明後日の方へと放られた。

「俺、こんなに機嫌がいいぜ!、見ててくれ!」

ムーサルトをした途端、岳人は強風に煽られギャラリーまで飛ばされた。

「ふふふ、がこっちを向いてくれたら機嫌も直るよ。」

正面に立とうとした滝はいつのまにか500メートルほど体を持っていかれていた。

「あ、あのさっ!の笑顔が俺の癒しって言うか・・・・・その・・・・・。」

口説こうと思った宍戸はなぜか異世界へと一瞬飛ばされた。

「じゃあセンパイ、俺の機嫌を良くしてくれますか?」

長太郎がの手を両手で包もうかと手を伸ばしたが、でかい背に遮られた。

「ウス・・・・・大丈夫・・・・・です・・・・・・。」

「よかった、やっぱりテニスは楽しくやらないとね。」

微笑むの後ろで、出遅れた者が一人溜め息を吐いていた。

(あの状態で俺が入り込むことができるわけがない・・・・・・ってか、あんたら全員下剋上してどこかへ追いやりたいよ・・・・・・・)


常日頃そんなやりとりをしている状態で休憩は休憩ではなく戦いの場になっている。

練習中とて似たような状態で、がコートから見える位置に来ると急に格好良く技を決めようと張り切った。

いつ休んでいるのかといえば主にの目がない場所&榊が来ていないとき。

それでも練習終了後は誰がを送るかで揉めるので、呆れた榊が順番を決めて、「守らなかったらレギュラー落ち」を宣言した。

の家は氷帝学園で一番遠いのではと言われているのに送っていくレギュラーはとても元気で練習後とは思えない。

平部員達は「そんな体力がないとここではレギュラーになれないのだろうか。」と密かに思っていた。

一応、レギュラー達の間では「に一人で迫らない、告白しない。」という協定が組まれている。

おかげでは全員が自分に惚れているとは気が付いていない。

休憩が終わりボトルを集めながら、の視線は残っているボトルとタオルに向けられたまま。

跡部はしゅんとなっているの顔を覗き込む。

「どうした、。」

「今日ってすごく寒いよね・・・・・・。」

「ああ、そうだな。この秋一番の冷え込みらしい。」

はぎゅっと拳を握りいきなりくるっとコートのドアへと体を向けた。

「やっぱり心配!私、ジローくんのこと探してくる。」

駆け出そうとするの前にいきなり壁ができる。

「「「「「「「「ちょっと待った〜〜〜〜〜〜!!!」」」」」」」」

行く手を阻まれたは自分よりも背の高いレギュラー達を見上げてまた首を傾げた。

それに当てられたもの、全員悶える。

((((((((うわ、うわ〜〜〜〜〜可愛すぎる〜〜〜〜〜〜!!!))))))))

「みんなどうしたの?もう練習の時間だよ。」

の声で転げ回っていた男達はハッとなって起きあがり、再びを囲む。

「ジローなら風邪なんてひかねえから放っておけ。」

「そうやで、アイツはどこで寝ても暖かい言うとったさかい心配ないで。」

「それより、俺のアクロバティック見てたほうが楽しいぜ。」

・・・・・・君は疲れてるんだから休まないと。」

「ジローのことはほっとけって。起こすとうるせえし。」

センパイ、他のお仕事あるみたいですからそっちをしましょう。俺、手伝いますよ。」

(あんたら・・・・・・仲間より女か。気持ちはわかるが声にするなよ)

「ウス・・・・・・一緒に・・・・・・探しましょう。」

樺地の一言には満面の笑みを浮かべた。

「ホント!?樺地くん、ありがとう!」

「「「「「「「「俺も探す!!」」」」」」」」

「え、だってみんな放っておけって。それに練習は?」

「ジローが居ないと練習にならないからな、俺達もと一緒に探すぜ。」

全員がうんうんと頷き、を囲むように歩き出す。

誰もいなくなったレギュラー用のコートは風が音を立てて吹いていた。

大名行列のように歩くはめになったはジローを探しつつも後ろのお付きが気になってしょうがない。

「あの・・・・・・みんなで同じ場所にいたんじゃ効率悪いと思うんだけど。」

「気にするな、歩く方向がたまたま同じなだけだ。」

「そうかな・・・・・本当?」

うんうんと頷くレギュラー達に首を傾げながらまたジローを探した。

「おーい、ジロー。どこに行ったんや〜。」

が見終わった場所を覗いたり呼ぶだけで探しているようには見えない。

「みんな、ちゃんと探してる?」

「おう、この通り。」

「なんか、そんなふうには見えないんだけど。」

木陰にいないかと手を伸ばそうとすると体で遮られる。

、木に触れるとささくれでの手が傷付くから触らないようにね。」

「萩くん、掻き分けないと探せないのよ?それにもう荒れてるから気にならないし。」

センパイの体に傷が付いたら、俺、芥川さんを恨みますよ。」

の手をギュッと握りつつ微笑みの背後に真っ黒いオーラが漂っていた。

「チョタ、私大丈夫だよ。ジローくんのこと恨まないで。」

「あ〜〜〜〜〜!どさくさに紛れての手え握るんじゃねえ!くそくそ!」

長身の長太郎をから引き剥がそうとしたが勢い余って飛んでしまう。

「がっくん、そんなところで飛ぶと木にひっかかるよ。」

センパイ、とにかく進みましょう。」(つきあってられるか。先に歩けば並べる)

「そうだね。この辺じゃないみたいだから進もうか。」

「ウス、こっちだと・・・・・・思います・・・・・・。」

誰も口に出さないがの隣を死守しようとさりげない攻撃を繰り出し始める。

がしがしと蹴り合い押し合う音が聞こえて不思議に思い振り返った。

「ん、何の音?」

「「「「「「「「なんでもないよ〜」」」」」」」」

お互いの攻撃で体のあちこちが痛いのだが無理に笑う。

しかし頬の引きつりは抑えきれなかった。

「・・・・・・みんな、汗かいてるよ。」

「気にするな。前を見て歩かないと転ぶぞ。」

「そうだね、ジローくんのこと見つけなくちゃいけないもんね。」

以外、ジローを本気で探している者などいないのだが・・・・・

「みんな、頑張ろうね!」

「「「「「「「「お〜〜〜〜〜〜!!!」」」」」」」」

ギュッと胸元で両手を握ったに悶え、勢いがつく。

心の中は「最初にジローを見つけて褒めて貰おうor ご褒美にデートしてもらおう。」だった。


以外、目はお互いを牽制し合い視界にはオンリー。

戦いは、静かに激しく続いていた。

本人はジローを探すことに集中して背後の戦いに気が付かない。

校舎の角を曲がってすぐ、低い木陰からにょきっと足が生えている。

「あ!あのシューズはジローくんだ!」

戦いに夢中になっていたレギュラー達はジローの元へ駆け出したから出遅れてしまった。

「ぐが〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「ジローくん、探したんだよ。ジローくんってば。」

いびきをかくジローの隣に座り込み優しく揺さぶっているに萌え、そしてジローに嫉妬。

((((((((俺も優しく起こされたい!ジロー(センパイ)ばっかりずるいぞ!!))))))))

「ジローくん、こんなところで寝てたら風邪ひくよ。眠いのなら部室で寝ようよ。」

の声に居眠り羊が少しだけ瞼を動かす。

「ん、ちゃん・・・・・・?」

「うんそう。戻ってこないから探しに来たの。」

ジローはぱちっと目を開けていきなり起きあがるとギュッとに抱きついた。

「マジマジ!?すっげえ嬉しい〜〜〜〜〜〜!!!ちゃん、俺のこと心配してくれたんだ!」

は真っ赤になりながらも嬉しそうに抱きつかれたまま。

その光景に一瞬魂が口から抜けたがすぐに舞い戻る。

「「「「「「「「ちょっと待った〜〜〜〜〜〜!!!」」」」」」」」

本日2度目の「ちょっと待った。」にと、に抱きついたままのジローは不思議そうに顔を上げた。

「ん〜、みんなどうしたの?」

全員の肩が震えて怒りを堪えていた。

「ジロー・・・・・・から離れろ。」

「なんで?」

ちゃんが嫌がっとるやないか。」

「嫌がってないよ、ねえ。」

「嫌がってるんだって!くそくそ!」

「別に嫌じゃないよ。」

、無理しちゃいけないよ。」

「無理はしてないんだけど。」

「とにかくジロー、離れろって!」

「え〜、ヤダ。だってちゃんのことぎゅってしたいんだもん。」

「ジローセンパイ・・・・・・世界の果てが見たいんですか?」

「世界の果て?ちゃんと行きたい!」

「とにかく、女性にむやみに抱きつくものものじゃありませんよ。」

「むやみじゃないよ、ちゃんだけ。」

「ウス・・・・・。」(代わってください)

「ダメ、だってちゃんは俺のモノだもん。俺の彼女だから。」

ジローの一言にひゅうっと音を立てて風が流れていく。

「「「「「「「「・・・・・はい?」」」」」」」」

「ジ、ジローくん・・・・・・恥ずかしいよ・・・・・・。」

この場にいる全員の耳が幻聴を聞いたのでなければ・・・・・・

「ジロー、今なんと言った。」

「あのね、俺とちゃん昨日から付き合ってるんだ。」

「「「「「「「「なに〜〜〜〜〜〜!どういうことだ!!」」」」」」」」

レギュラー達はジローに抱きつかれているに視線を集中させた。

「あの・・・・・・実は私、1年の頃からジローくんのことすごく好きで、片想いしてたの。

昨日の帰りにジローくんに告白して・・・・・・すぐにOKもらっちゃった。」

「そうそう、だって俺も前からちゃん好きだったから。」

「「「「「「「「ちょっと待てっ!抜け駆けはなしって協定を決めただろ!」」」」」」」」

取り囲む仲間達にジローはきょとんとしている。

「協定?そんなのあったかなあ?」

「あっただろ・・・・・・ちゃんと全員揃ったときに部室で決めただろ・・・・・。」

フルフルと拳を震わせている跡部の隣で忍足はハッとなった。

「ちょい待ちや、跡部。」

「止めるな、忍足。一発食らわせてやる。」

「そうやないて。今、気付いたんや。」

「何だよ、いますぐこいつを殴ってから引き剥がして。」

「あんとき・・・・・・ジロー、協定の話に加わってへん。」





そこで回想





全員の頭の中に協定を結んだ日の記憶が甦る。

約束のために円陣を作って手を合わせて・・・・・・

「「「「「「「「ん?」」」」」」」」

協定を決めたのはレギュラーと準レギュラー全員。

人数は9人、だが合わせた手は・・・・・・8本。

掛け声が終わった後にソファからいびきが。

「「「「「「「「あああああっ!!」」」」」」」」

ジローは、協定に加わっていない。

部室には確かにいたがソファに眠っていて話し合いに参加してなかった。

「俺、協定なんて知らないよ。約束した覚えもないし。」

ジローの言葉の含みに、誰もが気が付いた。

あの日、ジローは寝たふりをしてスルーしていたと。

こんな所に伏兵が居たとは・・・・・・。

呆然としているレギュラー達全員の目の前で、ジローは嬉しそうにをお姫様抱っこ。

「というわけで、ちゃんの笑顔は俺のモノ。」

ニコッと笑ったジローの顔は勝ち誇っていた。








【Fin】


やっべー素敵!素敵!素敵すぎるよ璃紗さん!
これ、お返しに何かした方が良いんだろうな!とか思いつつ、ああああたしの駄文をあのソレイユ様に送るなんて無理(゚д゚)と思って断念した自分が居ますOrz(逝っちまえ
本当にありがとうございました^^