「俺…あの葉っぱが落ちたら死ぬのかな…」

ぶっ、とあたしはその言葉に勢い良く噴出した。飲みかけていたお茶が地面にぽたぽた落ちる。うわ、きったない。
「何言ってるんですか先輩とうとう頭イかれましたか!」とベットに身を乗り出して言うと「うん?そう?窓から落ちたい?」と言われた。(んな訳ないじゃん!)

「どうし、たんですか…せんぱ、」
「笑い押し殺しながら言わないでくれる?笑いたいなら笑ってくれないかな」
「っぷ…べ、別に笑いませんよぎゃははは!」
「…」
「っははは…………ふぅ、笑い終えました!」
「お疲れ様」

にこりと笑ってあたしから目を外し、再び窓の外の木を見つめる。
え?いやいやまじで?外に何か居たりします?とか言いつつあたしもベットに飛び乗って窓の外を見る。

「あれ?ジャッカル先輩居ないじゃないですか」
「誰もジャッカルが居るだなんて言ってないよ」
「いや、先輩が窓の外見てるから…ジャッカル先輩でも居るのかなー?って。」
「あぁ、だから俺、あの葉っぱが落ちたら死ぬのかな…と思って」

切なさそうに言う先輩を見てまた笑いそうになるけれど「笑ったら…」なんて先輩が言うからあたしの口からは「ぶっふー」という意味の分からない声が漏れてしまった。
そのまま先輩と向き合う様にベットに正座して座り、先輩と同じ方向を見てみる。
窓の外の木はこれでもか、っていう位葉っぱが茂っててこれ絶対冬になっても枯れないだろみたいな感じだった。だって今夏じゃないですか!窓を開けてるからすっごいセミの声聞こえるし。

「せーち先輩どうしたんですか!死ぬ訳ないっすよ!」
「ふふ。せーちじゃなくて、せ・い・い・ち ちゃんと発音しようね、はい。」
「せ・い・い・ち…じゃなくて!何でそんな事言うんですか!」
「うーん、何か不安になってきてさ。」
「はぁ?先輩にもそんな気持ちあったんですか?」
「失礼なこと言うね?俺だって人間だよ?」

知ってるって。いや、でも部員の先輩達は『あいつは大魔王だ人間じゃない』とか言ってたけど。
…そうだ、先輩の手術明日なんだった。だから不安になってるのかな?え?これどうしたらいいの?励ますの?え?何このシリアスな雰囲気。あたしが少し黙ってたらあっというまにコレだよ?え?あたしの所為?

「先輩、大丈夫ですよ」
「…アイス食べたいなぁ」
「あ、アイスですか!?これはあたしに買ってこいっていう命令?ひどっ先輩ひどっあたしこれでも一応彼女でしたよね?」
「いや、今じゃなくて。退院したら。」
「退院祝いに奢れっていうアレ?ハーゲンダッツとか言わないで下さいね!」
「違う違う。2人で遊びに行きたいなって。」
「デートですか?あ、Wデートしません!?先輩と丸井先輩で!許可取って置くからさ!」

あたしがポケットから携帯を取り出すと素早く取り上げる先輩。「何するんですか!浮気チェック!?してないっすよ浮気なんて!」と言って真正面に居る先輩に右手を差し出すけど先輩はそのまま携帯をパカン、と閉じて隣の机に置いた。
くっそー!わざとあたしの手の届かないところに置いたな!

「先輩、あたしうじうじした人嫌いなんですけど。傍に居たくないんですけど。」
「じゃぁ、今の俺じゃぁ傍に居ちゃ駄目?」
「…微妙。せーち先輩だから良い。」
「…俺さ」
「何?」

先輩の腕が伸びてくる。何だろうと思ってじっとしてると腰を捕まれて(セクハラ?)先輩の近くへと寄せられてく、と思ってたらそのまま先輩の胸に倒れこまされた。…この表現間違ってないよね?あ、違う。抱き閉められたって言うんだっけ?そして先輩はあたしを座ったまま抱き閉めながらこう言った。



「幸せになるならとが良いなぁ」



「あたしもせーち先輩が良いよ」って呟いたらまたぎゅってされた。明日は手術。絶対上手く行く。
未だに体制は抱き閉められてるんだけど、今日くらいこのままで良いかな。あたし先輩の不安取ってあげられたかな。あぁ、早くせーち先輩とデートに行きたいな。ずっと我慢してきたんだもん。