「早く!、こっち!」
「…ッ」
もう無理なんじゃないか。でもあともう少しで出口に着く。だけど足がもつれて上手く動かない。手を繋いで走っていたけれどあたしが転んだ所為でその手は離れてしまった。 早く、早く立ち上がらなきゃ、逃げなきゃ。飛んで来る無数の矢。ああ、ごめんなさい精市さん。あたしの分も沢山生きて下さい。 目を瞑ってその時を待つ。しかし痛みはやってこない。その代わりに不意に抱き閉められる。精市、さん? ずる、と地面に倒れそうになる精市さんを必死で支える。
「精市さん、私を庇ったんですか…?」
「――っ」
「馬鹿なお人。これでもう、逃げられないじゃないですか。私は貴方に生きてほしかったのに」
―だけでも、―逃げて、」
「貴方が此処で死ぬと言うならば私も此処で死にます」
はぁ、はぁと精一さんの荒い息。 再び矢が飛んできて、今度は私の頭に刺さる。それに耐え切れなくなって抱き合う様に精市さんと一緒に倒れてしまった。
「精市、さん。次生まれ…変わる、のなら、平和な――世界 が良い、ですね」
この涙は死への涙か。愛する人との別れの涙か。ぽろぽろと涙が流れ出す。 この世界で生きていくには私達には辛すぎた。
「精市…さん、笑って、ください」
……愛して、る…よ」
「ええ、私 も愛してま、す」
微笑む精市さん。ありがとうございます、最期に我がままな私のお願いを聞いてくださって。抱き合っていれば、来世でもきっと巡り合えますよね。ずっと、ずっと一緒ですよね。私、聞いた事があるんです。人は死んで5000年の時を経てまた生まれ変わるんですって。だから5000年後にまた会いましょう。 「生まれ変わっても、君を必ず見つけ出す」


ヴァルダロの恋人たち
そして恋人たちは5000年間眠り続け5000年後に発見された