「会いたい。今から会える?」そんなメールが来れば断る訳ないじゃん。そっこー会いに行っちゃうよ。親指いつもの3倍位の早さで動かせて、「うん大丈夫。何処で?」って打って送信したら、15秒後に「お前んちの前」とか、さ。光どんだけあたしをキュン死にさせるつもりなんだ。
そうやって急いで外に出たらさぁ、あたしの姿見つけたあんたがポッケに手ぇ突っ込んでじっとこっち見てて。よく見て見れば、耳にガーゼ。しかも、血が滲んでんの。


「よう」
「よう……って、どうしたん、それ」


血の滲んだガーゼをチラッと見て、質問を問いかける。そしたらいきなりギュ、て抱き閉められて「何、ほんまどうしたん?」て冷静ぶってみるけど本当は心臓バクバク。


「ピアスの穴空けたら運命変わるって言うやん?」
「うん」
「あれ、嘘やで。なーんも、変わらんかった。」


「そうなんや」て言ったら、もう1回光は「うん。なーんも変わらん」て言った。何だかそれが妙に切なくて、その気持ちを誤魔化す様に「それで、失敗してその傷なん?」って問いかけると、「ちゃう。失敗はしとらん」という何だか矛盾してる答えが返ってきた。


「え、だったらなんなん?その傷。」
「義母さんに、穴をガーってやられた」
「ガー、って、何やそれ」
「こう、ガーッ、て」
「痛くないん?」
「めちゃめちゃ痛い。」


光の本当の母さんは、もう光が小学生の時に死んだらしい。それから1年後に今の義母さんと再婚。最初の方は上手く行っていたらしいが、1年前くらいから虐待が始まって、今に至る。それにしても耳の穴、ガーッて…ピアス引っ張られたん?血が出るまで、って…相当痛いでしょ。
医者行ったん?大丈夫なん?って言いかけたら、光の抱き閉める強さがもう1段階上がった。あたしは知ってる。光がこうやるときは、泣きそうな位弱ってるっていう事。


「光。あたしには虐待の辛さとか分からんけどさぁ、相当辛いやろ?…どっかに部屋借りて、2人で住めんかな?」
「無理やろ。金無いし。」
「金はあたしの親が出すよ」
「ああ、お前んち金持ちの放任主義やもんな」
「うん。でも学校は1人暮らし許可しとるっけ」
「黙っとけば良いやろ。」
「じゃぁあたしと2人で住もう。」



「ええなぁ、と2人暮らし。ええなぁ、ええなぁ。」と言葉を漏らす光。「だから一緒に住もうって、」て言うたら、「今は駄目や。親に金出して貰うとかダサいやろ」て言うた。でも光の抱き閉める強さは変わらない。あたしは心配になって だって、このまんまじゃ光が、て言うたら光は振り絞ったような声でこう言うた。「この檻からは逃げられへんねん」










「檻って何やねん」「檻は檻や」「出れへんの?」「出れてもすぐ捕まって、お仕置きされる」「ふうん…でもあたし、いつか光と暮らしたいで」「うん。ちゃんと稼げる様になったら、一緒に暮らそ」「楽しみやわ」「それまで待っててな」「当たり前やん。浮気すんなよ」「あーうん」「何やその返事」



そう言って笑い合った無知なあたし達