「あめ・・・雨が降りゆう、さかもとさん・・・」
今朝ニュースで放送されていたことを、あたしはまだ理解できていないらしい。だって、嘘だ。坂本さん、坂本さんは殺されてなんかない。1ヵ月前に、会ったばっかだもん。「、また来るきに!」って笑顔で手振って。約束の時間は、もうとっくに過ぎた。坂本さん、どうして来ないの?嫌だ、あたし、信じたくなんてないよ。
「さかもと、さん・・・っ」
頬から伝う涙。雨と混じってすぐに分からなくなるけど。1度涙を流し始めると、次々と目からは流れてくる。抑えようとする度に嗚咽が毀れて、・・・もう、いっそのこと激しく泣いてしまおうか、なんて思ったりして。頭も心もすっからかんだよ、あたし。何考えたら良いのか分からない。もう意味分かんない。あたし、今なにやってるんだっけ。
「う・・・ッ、〜、う、うわああんっ!」
誰も居ない通り道。不気味すぎるくらい静かな町に、あたしの泣き声が激しい雨の音と共に響く。この涙を止める術を、あたしは知らない。ただひたすら天を仰いで泣き喚くあたし。苦しい、痛い。本当、どうすれば良いんだろう。
「おんしゃー、なき泣いちゅー?」
「〜っ、来ない、きすっ」
「誰がなが?」
「たいせつな、ひと」
後ろから聞こえて来た声に、吃驚して一旦泣くのを止めるあたし。誰だろうか。ていうか、やっぱり声五月蝿かったのかな。とりあえず、謝った方が良いのかもしれない。そう思ってあたしがその人の方を振り向こうとした瞬間、ぎゅうう、と誰かに抱きつかれる。思考回路が一瞬止まる。だけど、あたし、この腕・・・知ってる、
「遅れてすまんち」
「―ッ、坂本・・・さん?」
「ん。ちくと、ごたごたに巻き込まれとったぜよ」
「〜う、・・・ひっ、く」
「あっはっは!げにまっこと可愛いやっちゃのー!ちくと遅刻しただけで泣きよる!そんなにわしに会いたかったかえ?」
そして「んー、ぬくいのー」と言ってあたしの首筋に顔を埋める坂本さん。雨に濡れてたんだからぬくいわけないのに。絶対セクハラだ。ってああ、本当に坂本さんなんだ。坂本さん、坂本さん。会いたかった。
「坂本さんのばか、」
「酷いのー。1ヵ月ぶりに会った恋人に言う台詞かのー」
「恋人じゃありません・・・、だって、だって坂本さん、ニュースで暗殺されたってゆうてたち・・・」
「なに!?まことかの!?わしゃあまだまだ死なんぜよ!」
ぐるりと向きを変えて、坂本さんを向き合う。・・・本当に、坂本さんだ。あのもじゃもじゃ頭も今は雨に濡れて肌に張り付いてる。なんか、すごい嬉しくて。あたしは思わず坂本さんに抱きついた。
「さかもとさん、心配したんです・・・、あたしを、1人にしないでください、」
「ん。当たり前じゃ」
「〜っ、坂本さん、だいすき、です・・・」
「わしもおまんが大好きぜよ?今度からもわし等と一緒に来るち」
ぎゅうう、と抱きしめてくれる坂本さんは、いつもと違って優しく微笑んでいた――のも一瞬。あたしはしまった!と思った。あれだ。間違えた発言をしてしまったのかもしれない。坂本さんは、にやり、と笑うと爽やかーにこんな変態発言をかましてくれた。
「初めてやき、優しくするぜよ」