私、宍戸は自分で言うのもなんなんだが苦労している中学1年生である。兄の亮がテニス部という事で無理矢理マネージャーにされ、さぼったりすれば部員総出で私を探し家まで押しかけてくる。(っていう事が数週間前に発生した。200人の一番前に立つ跡部先輩は「どうだ、参ったか!」とでも言いたげに笑顔を浮かべていた。大迷惑である)


「おい!テメーちょっとこっち来やがれ」
「・・・・・・はい、」


皆さんの為にドリンクを作っていたところを跡部先輩に呼び出される。どうせろくな事ないのに!昨日は「お前、なんで昨日先に帰りやがった。・・・し、心配しただろーが!あ、いや、今のは嘘だ!」なんて真っ赤な顔で怒鳴られた。跡部先輩はよく分からない。私の彼氏でもないくせになんやかんやと文句をつけたがる。・・・忍足さんや滝さんはそれを微笑ましく見守っていたが。


「良いか、仁王には近付くな」
「はぁ?何でですか?」
「近付くなったら近付くな!分かったな!」
「え、あ、おう・・・わ、分かりました」


肩をガシッと捕まれ顔を近づけられるこの状況を一刻も早くなんとかしたくて曖昧に返事をする。跡部先輩は「心配だ」と眉を顰めながらも私を離してくれた。今日は立海との練習試合の日である。立海の皆さんは奥の方で何やら会議しており、コートは緊張した雰囲気で満たされていた。


「跡部」
「な、なんだ仁王!(噂した所に現れやがって!)」
「そろそろ試合始めたいんじゃが。真田が煩くってたまらん。・・・・・お前さん、誰じゃ」


背後に現れた仁王先輩(で、合ってるかな?)は私を見つけると品定めするように下から上へと目を移動させた。・・・うざい。兄貴風に言うのであれば激ウザ。私、宍戸は自分で言うのもなんなんだが男にこれっぽっちも興味がない。男なんて所詮、女が力持ちになったのとさして変わらないじゃないか。


「宍戸――」
!名前を言うな!妊娠するぞ!」
「宍戸かの。俺は仁王雅治。宜しくナリ」
「・・・・・・宜しくお願」
!挨拶するな!出産するぞ!お、俺様が!」


跡部先輩はなんとか私と仁王先輩の間に割って入って会話を邪魔しようとしてくる。そんな跡部先輩に仁王先輩は溜息を1つして、私の腕をぎゅっと引っ張った。すると私の体は跡部先輩の横を通り抜け仁王先輩の元へ――行くなんてそんな王道なパターンには出ない。引っ張られた力に対抗してぎゅ、とその場で踏ん張った。・・力には自信がある。


「何ですか。」
「・・・いや、キスでもしとこうかと」
「よくやった!それでこそ俺様の!仁王テメー何してやがる!」
「私男とか興味ないんで」
「興味がないならキス位、どうってことないじゃろ?」
「おいテメー仁王何言ってやがる!」
「・・・、」
「ホラ。出来んってことはやっぱり男に興味がないってのは嘘じゃろ?俺にドキドキしてんじゃなか?」
「ちょ、無視してんじゃねー!」


バタバタと暴れる跡部先輩の脇を通り抜け、仁王先輩の目の前へ歩み出る。激、ウザ!仁王先輩の顔に左手をぴたりとくっつける。仁王先輩はニヤリと笑う。跡部先輩は暴れ狂う。


「バーカ!」


顔を近付けたのと同時に仁王先輩の股間へ蹴りをかます。あまりの強さに後ろで縛ったポニーテールが揺れたのを感じた。仁王先輩の笑顔が引きつった。後ろに居た跡部先輩も思わず黙りこくった。


「激ダサ!」


そう吐き捨てて身を翻すと、慌てて走り寄ってくる兄貴が見えた。テニスラケットも投げ捨てて私より長い1つ結びを揺らしながらも顔を真っ青にしている。


「ちょっと・・・ま、待ちんしゃい・・・、」




チラリズムモラリズム



苦し紛れに私を呼び寄せた仁王先輩は、私の肩に手を置きぜーぜーはーはーと息を吸う。なんだ、もう一発決めてやろうかと振り返ると、頬にあたる柔らかい唇。


「激ダサ、じゃな」