「え?もう帰んの?」
「うん、ごめんね彩子ちゃんさき帰る!」
「え、あ、うん。わかった。ばいばい」


はやく、早く帰らないと絶対あの人がやってくる!いやカッコいいんだけど心臓が持たない、というかあの笑顔を見せ付けられると周りの女の子の視線が・・・というか、とにかく私は今日丸井先輩を避けたいのだ。さっさと家に帰って昨日とったビデオを見たい!


「本当ごめんね!ばいばい彩子ちゃん」
「こんにちはちゃん」
「ギャッ!!」


心臓止まるかと思ったー!目の前に扉を塞ぐ様に立ってにやりと笑う丸井先輩。そして「みーつけた」と呟くとにこり、と綺麗に笑った。

会っちゃったよ会っちゃったよ会っちゃったよ!一番会いたくなかったのに!私は相当運が悪いらしい。はい、息を吸ってー…吐いてー…よし、うるさい心臓、静かになれ。


「よう、
「〜っ、こ、こんにちは」
「今帰る所?」
「あ、はい、あ、いや…」
「じゃあ一緒に帰ろうぜぃ」


有無を言わさずに握られた手は勿論恋人繋ぎ。視線が!同級生の子たちからの視線が超痛い!その視線を少しでも軽減させたくて、そっと丸井先輩の手から逃れようと試みたが――逆にぎゅ、と更に強く握られてしまった。軽く痛い。


「ま、丸井先輩、ほんと止めて下さい…」
「何を?」
「こうやって、…手とか、繋ぐの」
「何で?」
「〜っ」


淡々と言葉を返してくる先輩に思わず黙ってしまった。何で、って!何でって何だ!勿論決まっているじゃないか。この嫉妬が含まれた視線の数々!今まで「地味ズ」と呼ばれるような私だったのに、いきなりこんな視線を向けられたら耐えられる訳がない。おかげでそのうち苛められやしないかと毎日不安でならないのだ!


「ねぇ、何で?」


にやりと笑っている先輩はきっと「は、恥ずかしいからです…」みたいな乙女的な台詞を期待しているのだろう。…あ、あながち間違ってはいない。確かにものすごく恥ずかしい。だけどそれは今までゼロに近いほど私には恋愛経験がなかったせいであって、丸井先輩だから、という訳ではないのだ!(多分…)

だかしかし!私は負けない。此処はがつんと言うべきだ。そして丸井先輩にちゃんと分かってもらわなければ!


「あのですね、」
「おう」
「私に好きな人が居るからです」


おっしゃー!ビクトリー!いえた、言えたぜ私!心の中ではビリー隊長が私の頭を乱暴に撫でてくれている。グット!とか言って。やりました隊長。言ってやりました。
よし、これでもう平気な筈だ…!と隣の丸井先輩を見ると、何故なのか俯いてしまっていた。流石に心配になり、丸井先輩…?と声をかけると腕を強く引かれてしまった。


「〜っっ!!」


先輩の吐息が首筋に当たって、自分の顔に熱が集まるのを感じだ。ぎゃー!いやー!おそわれるー!
泣きそうなのを堪えながらも先輩を引き剥がそうともがく。もう周りの視線なんて気にしていられなかった。


「好きな奴って誰」
「せ、んぱい!!!」
「言ってくれるまで離さない」
「〜っ、じゃ、じゃっかる先輩です!」


言ってから自分の発した言葉に驚いた。ジャッカル先輩って!よりによってジャッカル先輩って!確かにジャッカル先輩は3年生の先輩の中で一番話しやすい先輩だ。だけど、よりによって!
私の言葉を聞いた先輩はようやく動きを止めて私を放してくれた。


「だ、第一先輩は私のことからかってるんじゃないですか!もうやめてください!」


ちくしょー私がなにをしたー!
顔の熱が冷めるようにと両手で必死に頬を押さえる。先輩はそんな私をびし、っと人差し指でさしこう言った。





「惚れさせてやるから覚悟してろ」