「ほーんっと、早く幸村ブチョ帰って来てくれないっスかねー。副部長うるさくてうるさくて…」
「なんだと赤也!貴様――」
「ほらー!すぐ殴ろうとする!」
「真田、赤也。此処は病院だ。静かにしろ」
「あ…スミマセン」
「う、うむ…すまん」
「流石参謀じゃのう」


赤也もガキだけど冷静に見たら真田だってガキじゃね?なんて思い始めた今日この頃。いつもの様に練習帰りに幸村の病院へ向かう俺ら。
幸村の手術も間近に迫っていて、ちょっと不安な気持ちもあるけれどそれよりも幸村に早く戻ってきてほしかった。それは別に赤也みたいに真田に文句があるとかそういうのじゃなくて、やっぱり立海テニス部は幸村が居てからこその立海テニス部だから。1人もかけてほしくねーんだよなぁ。なんて俺ちょっとかっこよくね?天才的?

今日も幸村の病室にケーキ置いてないかなー。この前置いてあったからな、今回はチョコケーキが良い。…こんなこと口にしたら真田に叱られそうだからぜってー言わねぇけど。
そんなことを考えながらも病院の廊下を歩いていると、佇む少女が数メートル先に居た。いや、少女っつっても俺等と同じ位だろうけど。なんていうか・・・幻想的って言ったらいいのかな。まるでそいつの周りだけ世界が違うみたい。思わず立ち止まってしまって、そいつの顔を凝視してしまった。薄らと朱に染まった頬に柔らかそうな唇。まるで人形みたいな瞳に、長い睫。絵に描いたような美少女。少しフェーブの掛かった髪を肩の高さで揺らしながらドアノブに手を掛けようとしていた。(あ、幸村の病室じゃん!)


「ブン太。急に止まるな」
「あ、悪い…」
「って、あの女の子すげー可愛いくないっスか?」
「んー、どれどれー」


目を細めて品定めをしているよな仁王になぜか腹が立った。よく分からないけど。
自然と他の奴らの視線もその子へ向かっていた。…珍しー。真田が赤くなって固まってる。超爆笑なんだけど。
その複数の視線に気づいたのか、そいつはゆっくりとこっちを見た。(その瞬間仁王がぴゅう、と口笛を吹いた)


「……」
「「「……」」」
「……」


クエスチョンマークを頭の上に浮かべ、不思議そうに首を傾げるその仕草に思わず口を手で覆ってしまった。赤也なんかは「かわいい…」なんてぼそっと呟いていた。
…誰も喋り出さない。…喋り出せない。女に興味が無さそうな柳まで無言。そいつはしばらく不思議そうな顔をしていたものの、思いついたようにそっと笑みを浮かべた。


「こんにちは」


蜂蜜の様な甘い旋律が酷く美しい。触れてしまったら壊れてしまいそう、っていうのはこういう事に違いない。


「あ、あの!お嬢さん、な、名前はっ!?」


…思いっきり赤也を殴りたい。アホだ、こいつ俺以上にアホだ!初対面の人に名前聞くなんて、お前はどこの千石だよ!
どうやらその気持ちは仁王なんかも同じらしく、恐ろしく黒い笑みを顔に出していた。…赤也はそれに気づかない。


って言います」
、さん……。!、し、失礼ですが苗字をお伺いしてもよろしいですか?」
「はい。幸村です。幸村、

「ゆっ幸村!?」


驚くのも束の間。目の前の扉から幸村精市がご登場。


「やあ。にみんな。来てくれたんだね。…何処で会った?」


こえー!超こえー!その笑顔が怖い。静かな口調が尚更怖いっての!


「…偶然、此処で会った。それだけじゃ」
「…本当かい?」
「うん、本当。お兄ちゃん」
「お、お兄ちゃん…?」
「ああ。紹介が遅れたね。俺の妹、。あれは前に話した友人達ね。…紹介するつもりなかったんだけどな。」


…そんな困った様に眉を寄せられても凄く困るんですが。俺達別に悪くないと思うんですが。
そんな俺の心境を無視して、幸村の妹……ちゃん?うおっ寒っ!俺ちゃん付けするキャラじゃないな。今実感した。で、…は、俺達の前へ一歩進み出てこれまた花も恥らう笑顔を綻ばせながら静かに言葉を紡いだ。


「やっぱり兄のお友達だったんですね。幸村です。改めてよろしくお願いします。えと…真田さんに柳さん、あと桑原さんに柳生さんに――」
「切原丸井仁王ね。この辺はややこしいから覚えなくて良いよ」


なに、この扱いの酷さ!なんか虫除けみたいな感じ。仁王を覚えさせたくねーのは分かるけどなんで俺まで!
でもこれで反抗したら後で怖いからなー…でも俺も名前覚えて欲しい!よし、言うぞ。どうせ仁王は面倒くさがって言わないだろうし赤也は――


「…仁王雅治じゃ。よろしく」
「あっ、切原!切原赤也!よろしく!」


「(えっ、は!?)」



























「ええと、あなたは?」


おい、嘘だろ!?あいつらアタックする気まんまんじゃねぇか!俺、すげー乗り遅れた感じなんだけど!って、俺話しかけられてる!?


「ま、まるいぶんた!です!」
「丸い、ブン太さん?」
「っ丸井、ブン太」
「まるいさん」


恋の予感。ついでにライバル推定7人以上。