仁王雅治。 中学3年生にして食べた女の数は数知れず。 その甘いマスクと詐欺師というあだ名で何人もの女を泣かせた。 きっと彼にとって”女”とは、遊び道具でしかないのだろう。 ちょっと待てと言いたい。最初にそんなことを言い出したのは誰だと。 柳生比呂志は公言しましょう。 仁王雅治くんは詐欺師なんかではなく、ただのヘタレです。 みなさんがどのようなイメージを持っているかは計りかねますが、彼はただのヘタレです。何度でも言いましょう。彼はヘタレです。 『仁王雅治が食べた女の数は』――?ふざけたことを言ってるんじゃありません。彼は女性に触れることもできないヘタレですよ?そんなことが出来る筈がありません。女性を泣かせたことは否定出来ませんが・・それも彼のヘタレ故でしょう。 彼は確かにモテます。現に今日だっていくつかラブレターをいただいたようです。今時ラブレターかと思うかもしれませんが、彼のメールアドレスなんかを知らない奥手な女性には打って付けの告白方法のようです。 初めの頃はラブレターの書き主に1人1人会って丁重に断っていましたよ。――仁王くんではなく、変装した私が、ですけれども。 「やーぎゅー!お願いじゃ!この通り!」 「・・またですか。いい加減自分で断れるようになりなさい。相手の女性にも失礼ですよ」 「だ、だ、だだだだって、俺口下手じゃし・・なんて言ったら良いのか分からんし!」 「・・はあ。仕方ないですね。今回だけですよ」 「ありがとな柳生!」 こんなやりとりを何回したことでしょう。 長い間私は仁王くんのフリをして女性の告白を断っていました。しかし流石に限度というものがあるでしょう・・。いくら仁王くんが救いようのないヘタレとはいえ、私にも罪悪感というものがあります。ある日を境に私はその頼み事を断りました。 それから少しの間だけ、仁王くんは自分で断ることにチャレンジしてみたそうですが・・やはり無理だったそうです。噂によると本物の仁王君に断れた女性は『舐めまわすような視線で品定めされたあげく、「駄目だ」と言われた』そうです。 ・・最低な男ですね。これでは勘違いされても仕方ありません。 ヘタレ仁王くんのことですから、どう断ろうかと視線を泳がせていたけれど、やはり俺には出来ない、駄目だと口にしてしまったのでしょう。 ポーカーフェイスは彼にとってマイナスな面になると思います。困惑した顔も無表情でしか表せないのですから損してますね。 「柳生!」 「なんですか仁王くん」 「お、おおお、俺・・ 好きな人が、出来た!」 そんな仁王くんからの突然の告白にびっくりしてしまうのは当たり前のことでしょう。 第一あなた、女性を苦手としていませんでしたか。 「あいつ・・のこと考える、と、ここがきゅーってなって・・仕方ないんよ」 耳まで真っ赤にしながら仁王くんは俯いた。銀色の細い髪の毛がさらさらと揺れる。 「ど、どうしたら・・いいんかな、俺」 「さんとは仲良いんですか?」 「・・全然。話したこともなかよ」 「じゃあまずは挨拶からですね」 「いきなり声かけて不審に思われんかな!」 「大丈夫ですよ、貴方なら」 「どどどどうしたらよか!やぎゅ!考えたら緊張してきた!」 ・・もう一度言いましょう。彼はヘタレです。 |