最近の彼はすこぶる機嫌が良い。なぜかって、理由は1つだ。


「やぁっぎゅー!」
「・・こんにちは仁王くん」
「今日もと挨拶できた!」
「(またですか・・)良かったですねえ」
「しかもな!昼休みに1回目が合った!!」
「それはそれは」


はい、相変わらずハイテンションでヘタレな仁王くんのお出ましです。
知る人ぞ知る仁王くんの秘密。彼は詐欺師なんかではなくただのヘタレです。

あれですからね。私達のペアの有名な技、お互いの変装をするっていうのも元はと言えば仁王くんに懇願されて出来た技ですからね。



「柳生!頼む!本当に!」
「いやですよ。なんでそんなめんどくさいことを私がしなくちゃ・・」
「だって女の子からの視線が怖いんじゃもん!試合に集中どころじゃなか!」
「・・。」



確かに仁王くんは女性からモテます。試合中に視線が集まるのも分かります。ただちょっと待てといいたい。仁王くんは私には女性の視線が向いていないと言いたいのでしょうか。実に失礼です。私だって人並みに視線を集めます。

まあ、そんなこんなでお互いの変装をするということになってしまった訳ですが・・。これもまた失敗でしたね。なんてったって『コート上の詐欺師』なんて呼ばれるようになってしまったのですから。私から言わせたら、どこが『詐欺師』だと言うんでしょうか!!もう『コート上の詐欺師(笑)』ですよ。かっこわらい。


「最近は、あいつから挨拶してくれるんよ」
「そうなんですか」
「にこって笑って!その度に俺心臓が!口から出そうになる!」
「良かったですねえ」
「ほんっとに可愛いんよ!俺、俺・・」


頬を朱に染めながら、仁王くんは幸せそうに私に語りかけてくる。

・・仁王くんのヘタレにはテニス部のメンバーもホトホト困っています。私も思うわけです。そろそろヘタレを治してはどうかと。
柳生比呂志は公言しましょう。

仁王くんのヘタレを治してみせます。

要するに、女性に慣れればいいのでしょう。そのためにはさんとお付き合いをすれば幾分かは慣れるはずです。仁王くんの容姿を持って接すれば落ちない女性はいない・・と思うのですが・・彼、ヘタレですからね。どうなるか分かりません。


「それでな、」
「仁王くん」
「・・?なんじゃ柳生」
「そろそろ次のステップへ踏み出してみてはどうでしょう」


仁王くんは小首を傾げ「すてっぷ?」と言葉を漏らす。
まるで子犬のようですね。こんな姿も女性の母性本能とやらをくすぐるのでしょう。


「挨拶だけではなく、もっと話をしてみるとか」
と!?む、無理無理無理!!」
「そしてゆくゆくはメールアドレスの交か」
「むりむりむりむりむり!!!!柳生のあほう!!」


仁王くんは耳まで真っ赤にし「うわー!」と走り去ってしまった。

・・彼、ヘタレすぎやしませんか。本当に大丈夫だろうか。


He can't
talk with her.