「好きです」
「――キミ誰?」


忘れもしない、あの台詞。めちゃめちゃ奥手で有名なあたしが一世一代の告白をしたのだ!しかも入学当初から好きだったと言うのに、彼は私の想いをバッサリと切り捨てたのだ。後から聞けば、この台詞は彼が女を振る時に使う言葉ナンバー1らしい。酷い、酷すぎる。これがあの幸村精市か。彼の本性を知った今、あたしが取るべき行動は1つ。絶対良い女になって見返してやる、と決めたのであった。













「おい――また来てるぞ、あの子。」
「よく懲りませんよね…あそこまで来ると尊敬するっス。」
「顔はそこそこ良いのになぁ…」
「はぁ…悪い、ちょっと行って来るよ。」
「頑張れよ」


テニスコートの近くの木から、あたしは彼を盗み見する。―うわ、来た、来た、こっちに彼が来た!あたしはふふん、と鼻を鳴らし彼の前へと勇み出た。


「幸村さん、今日こそあたしの美貌に振り返りましたか、」
「あのさぁ…何度も言ってるけど、テニス部の練習は観覧禁止なんだ。分かってる?」
「分かってますよ。あたしが見てるのはテニス部の練習なんざじゃなくて幸村さんですから!」
「好い加減、迷惑。コレを世間ではストーカーって言うんだけど?」
「知ってますか、幸村さん?ストーカーは”スキな人を トリコにする為の カートレス”の略なんですよ」
「言ってる意味が分からないかな。さぁ、とっとと帰ってくれない?」
「嫌ですよ。あたし何も邪魔してないじゃないですか」


にこにこと怖いくらい幸村さんは笑うので、あたしもニッコリと笑い返しながらそう話す。
あたしは変わったのだ。もう『めちゃめちゃ奥手なさん』ではない。『キング オブ 』なのだ。あれから化粧も研究して膝下スカートも太ももまでの長さにして、ピッチリベストもダボダボカーディガンにして、眼鏡もやめてコンタクトにして。

それでも幸村さんは振り向いてくれない。こんなに変わったのに、何故惚れない?「男はイメチェンに弱いのよふほほ」なんてお母さんは言ってたのに。
何度もくじけそうになった事はあるが、そんな時は2ヵ月前の告白、そして彼の台詞を思い出すのだ。―ほら、復習の灯火がじわじわと燃え上がる。すぐにやる気復活だ。絶対に落として告白させ、「キミ、誰」って言ってやるのだ!


テニスコートに居るレギュラーの皆さんは、私と幸村さんのやり取りを見て「凄いな、幸村の黒魔術と対等に渡り合ってるぜ」なんてひそひそ話す。ふふん。幸村さんの黒魔術なんて攻略済みだ。寧ろあたしにとっては白魔術にすら見える。(っていうか、隣の家の長身銀髪一球入魂野朗の方が格上だと思う。)


「何で幸村さんはあたしに振り返ってくれないんですか。年の差、って奴ですか」
「早く帰らないとキミの飲み物に猛毒を盛るよ?」
「でも1歳の差しかないですよ――あ、もしかしてボン・キュ・ボンじゃないからですか!?」
「ふふふ、俺殺し屋の友達が居るんだよね」
「待っててくださいよ幸村さん、今日牛乳飲みますから!牛乳飲むと乳でかくなるそうですよ!」
「明日の朝日を拝めないと思ってね」
「よーっし、じゃぁ、早速飲んできます!では!」
「ふふふ、じゃぁね」




「アイツ…本当最強だよな、」
「話噛み合ってないのに噛みあってる気がしますよね」


そうなのか、幸村さんは巨乳が好きだったのだ。ああ見えてムッツリなのか、幸村さんは。そうだよね、あれでも中3ですからね。いろいろ盛っちゃう時期な訳だ。


―その時だった。るんるん、と明るい足取りてテニスコートを後にしようとするあたしに再びあの時の様な悲痛な台詞が聞こえたのは。


「幸村、お疲れ様。」
「本当――ウザいしキモいし最悪だよ。」


どくん、と心臓が波を打つ。あたし、ウザがられてたのか。キモがられてたのか。にもそう言われてたけれど、普通に受け流してた。冗談だって思ってた。
でも言われてみればその通りだ。これじゃぁあたしは本当に只の、ストーカー。
顔が真っ赤に染まり、視界がぼやける。恥ずかしい。今頃気付いた。あたしキモいよ。ウザいよ。今まで何やってたんだろう。…でも、可笑しい。あたしは幸村さんが嫌いな筈なのに。どうしてこんなにもショックを受けてるんだろ。


(とにかく、もう幸村さんに関わるの、止めよう…っ)


再び再会されるテニス部の練習での掛け声、ボールが地面に当たる音をBGMに、あたしはそそくさと家に帰ったのであった。