重い足取りで教室の扉を開ける。クラスメイトはあたしの姿を見てざわざわとどよめく。うう、ちょっと気分悪いなぁ。
でも、クラスが騒ぐ理由は分かる。大いに分かる。だって今のあたしは「キング オブ 」ではなく「めちゃめちゃ奥手なさん」なのだ。
しかしずっと教室の入り口で突っ立てる様じゃぁ話にならないので、自分の席へと向かう。そして、吃驚して目を丸くしている友人に一言。


「あ、ちゃん。おはようございます」


この言葉にざわざわとまたどよめきが起こる。くそう、好い加減慣れてくれ。なんか天然記念物みたいな扱いしやがって、


…どうしたの、その格好…」
「何か変なところでもありますか?」
「口調まで……。戻ったの?」
「あたしは昔からこうですよちゃん」
…?」


ごめん。いくら友人だとは言え女には言えないことが1つや2つはあるんだ。「うふふちょっと寝坊して時間がなかったの」ならまだしも、「昨日幸村さんに『ウザいキモい』って言われたの」なんて言える訳がない。うう…思い出しただけでも泣けてきそうだ。
もう幸村さんに関わりたくない。関われない。どうでも良い。第一あたしの目的は『良い女になって幸村さんを落としてギャフンと言わせる』だったのだ。幸村さんの事はもうどうでも良いのだから、良い女になる必要なんてなくなった。だから戻っただけだ。


ぶっちゃけミニスカはスースーして屈んだりするとオーノー!な事件になってしまうし、コンタクトは入れるときと外すときに凄い勇気を使うし(だって自分の目ん玉に指を突っ込むなんて…怖いったらありゃしない。)あたしはこの格好がきっと一番似合ってるんだ。
ああでも、クラスのみんなに少し申し訳ない。「さんイメチェンよ!」何て言ってあたしを一からプロデュースしてくれたのはみんなだったのだ。やはり人間無理なんてするもんじゃない。


「――うぅぅうう…」
「っ!?ちょ、どうしたのよ!」


それでも幸村さんとの思い出(す、ストーキングな日々…)を思い出すと何故か泣けて来てしまうのであった。
















「うん?何か違和感が…」
「どうした?ブンちゃん」
「何だろう、何かが今日違う!」
「あー…俺もそう思うぜよ…幸村もそう思うじゃろ?」
「何で俺な訳?」




部活がやっと終わり、休憩時間。マネの子からそれぞれタオルとドリンクを貰う。
仁王は意味ありげな笑みで俺に問いかける。――俺はその笑みがムカつくよ――そんな意味を込めてニコ、と笑うと仁王(+それを見ていた部員達)は自然と俺から目を逸らす。中には冷や汗をかく奴まで。


仁王が言ってた意味は十分分かる。十分に分かるからこそイライラするのだ。
――『あの子が来ないから』仁王が意味ありげな笑みをした理由はそこに在る。あのストーカー女の事だ。


彼女は、1ヵ月前程から俺の周りをうろちょろする様になった。しかも、毎日。部活を怪しく観察する彼女を俺が追い払う。部活でもそれが日常となっていた。雨が降ろうと何だろうとやって来るのが彼女だ。いつもは決まった時間帯にひょこ、と現れるのだが今日は部活が終わったというのに来ない。
別にそれは当たり前の事で、何も可笑しい事ではないのだが――何故かイライラしてしまう。居たら居たで困るが、居ないと居ないで調子が狂う。
(そういえば、名前も知らないな…。)(別に、どうでもいいけど…。)






彼女はそれから俺の前に姿を現さなくなった。…不気味だ。うざったい位くっ付いてきたと思えばすぐ居なくなった。何なんだ。


それから柳が「彼女のデータを教えようか」と言ったのはそんなに時間が掛からなかった。