「じゃぁ――これ、応用問題だが、分かる奴。」
「はい。答えは2.5876mです」
「流石だな。正解だ。」


クラスからちらほら湧き上がる拍手。私は恥ずかしそうに席に座る。あぁ、「めちゃめちゃ奥手なさん」もついにみんな慣れてしまったらしい。
――あたしが幸村さんを避けてから、2週間が経とうとしていた。幸村さんはさぞかし喜んでいるに違いない。













キーンコーンカーンコーンとベルが授業の終わりを告げる。とたんにざわめく教室。あたしはいつもの様に読書をしようと鞄の中から本を出した――瞬間、急にクラスの女の子の「キャー!」という黄色い声が聞こえた。…うぅ、きっと『キング オブ 』ならばあの黄色い声の一員になっていたに違いない!例えば幸村さんとかとすれ違って「キャー!格好良いー!」みたいな……って、また幸村さんの事を思い出してしまった。くそぅ、しぶとい男め。魔性の男め。
読書をしようにも、相変わらず五月蝿い悲鳴のせいで集中出来ない。本から顔をあげ、悲鳴の元をちらりと見る。――少しだけだ。べ、別に気になっている訳では決してないのだ!


「幸村せんぱぁい!今日も格好良いですね!」
「ふふ、ありがとう」
「「「きゃー!」」」


「……っ、ゆ、ゆきむら…さん…?」


女の子の様な美しい顔立ち(っていうかそこら辺の女の子よりはずっと美人だ)、くるくると程よくカールした黒髪。そこには紛れも無く幸村さんが居た。幸村さんを中心に人だかりが出来ている。な、なんで此処に居るんですか、幸村さん。
もしかして、あたしの事を恨んでいて…ムカつくので決闘を申し込みにきた、とかだろうか!…いやいや、あれは幸村さんだ。そんな乱暴な事をする訳が…いやまて。やっぱり幸村さんならしかねない!
ああ、どうしよう。――お、臆するんじゃない!その時は決闘を受けて立とうじゃないか!


「幸村先輩!どうしてこんな所に来たんですかぁ!?」
「ふふ、ちょっと探し人をね」


女子の甘ったるい声。それを見てクラスの男子共はますます機嫌を悪くする。(ドンマイだ男子。でも幸村さんには絶対勝てないだろう。ルックスでも何でも)
ってゆうか、探し人…って…あたしか!さてはあたしか!な、何であたしがこのクラスだって知ってるだろ…!あっ!幸村さんの友達には確か柳さんと言う他人の個人情報を抉るのが生きがいとゆう悪趣味を持った人が居た!くっそう、あいつもグルか!今更になって酷い。そっとしておいてくれ!


幸村さんはにこにこしながら女子生徒と話す。――あぁ、あたしもああやってよく話したな。頑張ったよねぇ、あたし。楽しかったなぁ…たったの2週間しか経ってないというのに、凄い昔の事の様に感じる。――あ、あれは夢だったのだ!もう、忘れたかったのに…末恐ろしい人だ幸村さん。


「え〜誰探しに来たんですかぁ?」
「あぁ、…えっと、 っていう子なんだけど…このクラスに居る?」


き、きたー!!!!もうこれはあたしで決定じゃないか。幸村さんと決闘の時が来たとは…夢にも思わなかった。う、でも今のあたしは『めちゃめちゃ奥手なさん』だ。…いや、そんな事は関係ない!いざ出陣だ!


「えっとぉ…ちゃんなら…「あっ、あたしがばい!」


がたっと席を勢いよく立ち、幸村さんにガンを飛ばす。勢いの余り椅子は倒れてしまい、何処かの方言が混じってしまった!ショック!
あたしの眼に入ったのは、吃驚した幸村さんとクラスのみんなの顔だった。