、お前やっぱバカだよ)
口許を自嘲気味に緩ませ、は友人の元を後にした。何ともいえない欠落感がを襲う。これでに会えるのは最後なのだと感じると、どうしようもなく胸が熱くなるのだ。


「ねえねえ、やっぱりあの噂本当だったのかな」
「えー、そんなバカなこと、ある訳ないでしょ」
「そうかなあ。でも君女の子みたいな顔してたし」
「確かに可愛かったよね。でもあの跡部様があんなことする訳ないよ」
「だよね。男の子同士だもんね」


すれ違った少女達の会話がの耳へ舞い込む。盗み聞きをする気は毛頭なかったのだが、の名が出ると嫌でも耳に止まってしまう。一体どういう事なのだろう。大したことではなさそうだが、些細なことでもは友人の思い出として知っておきたかった。


「ねえ、そこの君たち」
「は、はい」
「その話、詳しく知りたいんだけど・・駄目かな」


の整った顔を向けられてそうお願いされれば、断ることが出来る女の子なんてまず早々居ないだろう。2人の少女は少々困ったように顔を顰めたが、のお願いを容易く受け入れた。


君が、その、ある人たちに『セイテキボウコウ』を受けてたって・・」


セイテキボウコウ――性的暴行のことだろうか。俗に言うレイプ、と言ったところか。控えめに話す少女たちはまさかとその『君』が大親友であったことなんて思いもしないだろう。ただの噂好きの変な青年としか捉えていない筈だ。


「ふぅん。じゃあそれが原因で自殺したのかもしれないね」
「そうなんですよぉ。交通事故って言ってるけど怪しいよねぇ」
「あくまで噂ですけどねぇ」


確かに、を轢いてしまった運転手は「あっちが勝手に飛び出してきたんだ」と発言し、その現場を見ていた人たちもその証言に賛同している。それでも轢いたことに変わりはないのだが。もし本当にの死が自殺だったら――?
(ないない、ありえない。んな事されてたらあいつ、俺に相談するっての)
には絶対的な確信があった。幼い頃から一緒に生きて来た友人だ。全て本音を出して語ってきた。にとっても、にとってもお互いが唯一の本当の友人だった。中学になり学校は別々になってしまったが、とは定期的に会ってその度に本音をぶちまけていた。そのが、に言えない秘密なんてある訳なかったのだ。


「そっか、分かった。じゃあ、時間取らせちゃってごめんね」
「いえ、全然平気です」


少女達に笑みを浮かべながらは再び歩き出す。十数分歩いたところで前方から固まって歩いてきた青年達を見つけたが、相手はこちらに気づいてない様だ。この青年達も服装から見ての葬式に向かうみたいだが、どうにも騒がしい。友人が1人死んでしまったとは思えないテンションの高さだ。


「マジでさー、ちょっと怖いよな」
「そうだよねぇ。死んじゃうタイミング良すぎだC〜」
「やっぱ、ヤりすぎたんじゃね?アイツいつも泣いてたし」
「あぁ?違う意味でも鳴いてたけどな」
「ほんま、アトベサマ性格悪いわ〜・・天国のアイツも怒っとるって」


彼等が通り過ぎたところで、は振り返って彼等を見つめる。青年達を見つめるその瞳は、恐ろしく冷たい。こんな事がありえるのだろうか。は手の平を固く握り締め、身を翻し歩を進める。

























いいか?








これは復讐だ。








その目ん玉しっかり開いて見てろよ。







俺から全てを奪っていた、その代償は高いんだぞ?



















Nhility
(real time on the deadline.)