「あー!悠一郎くんのじいちゃん!」
「おお、ちゃん。どうしたんだい?」
「悠一郎くんの学校見に来たの!どこか分かる?」
「ああ、そこだよ」


じいちゃんが指を刺すさした先には活気溢れるグラウンド。悠一郎くんがあそこに居るんだ、と思うと走らずには居られなかった。



足を掛けた金網が音を立てる。がしゃんがしゃんがしゃん。鍵が掛かってるんだからしょうがないよね。
学校帰りに着替えないで来ちゃったからセーラー服、パンツ見えちゃうかなって思ったけどいいや、人居ないし!
金網のてっぺんに手をかけてグラウンドを見渡す。掛け声をしながら走り回る人たち。悠一郎くんは・・、いたっ!
・・でも今声掛けちゃったら迷惑だよね。よし、休憩時間になるまで待ってよう。ああ、わくわくする!


* * *


「あぢー!」


グラウンドを数十週してようやく休憩。監督の休憩を告げる声と共に崩れ落ちる俺達。こんな炎天下の中だからしょうがないと思う。でも流石に暑いから俺はベンチの方行くけど。ってかやっぱりみんな行くみたいだけど。
篠岡からドリンクとタオルを受け取ってふと思う。最近と会ってねーなー。
練習忙しいから遊べないんだよな。オナニーだって1日1回しか出来ねーし。ありえねー。


「ゆーいちろーくーん!」

そんな中聞こえてきた声は、疲れた俺を思わずそこまで走らせるのに十分だった。



* * *



「ゆーいちろーくーん!」

何だか休憩時間になった様なのでその名前を叫びながら手を振り回してみる。すると悠一郎くんは他の野球部の人と一緒に振り向いて、数秒間固まった後こっちに走ってきた。
うーん、グラウンドに入っちゃって良いかな・・ちょっと位なら良いよね。金網を上りきって、地面にジャンプ。ちょっと転びそうになったけれども何とか着地。そして顔を上げると悠一郎くんがもうそこまで来ていた。

「やっほ、悠一郎くん」
「〜っはぁ、ふぅ・・!何で此処に居るの!?」
「?決まってるじゃん!悠一郎くんに会いたかったからだよー!」


汗を拭う悠一郎くんに向かって微笑みかければ悠一郎くんも面食らったような顔をしたあと眩しい位の笑顔を見せてくれた。


「悠一郎くんが高校入っちゃってから全然会ってなかったでしょ?あたし寂しかったんだー」
「俺も寂しかった!でもさー、練習毎日夜までやるんだぜー。楽しいけど!」
「いいなあ。あたしも悠一郎くんと野球したいよ!」
「おう、今度やろーぜ!また教えてやるよ!ゲンミツに!」
「ほんとー!?悠一郎くんだいすきー!」


また一緒に遊べるんだー!嬉しい!そんな気持ちで頭がいっぱいになり勢い良く悠一郎くんに飛びつくあたし。悠一郎くんはそんなあたしをしっかりと受け止め てくれて、「変わってねーなー、って!」と耳元で嬉しそうな声を出した。


「悠一郎くーん」
「んー?」
「えへへ、暑いね」
の体温なら大歓迎!」
「・・あと、野球部の人がずっとこっち見てるー」


そうなのだ。あたしが悠一郎くんに抱きついた時にはすでにこっちを見ていた。――視界に入る限り、全員が。
遠くてよく分からないけど、どの人もさっきから少しも動かない。あたしやっぱ邪魔だったかな・・。そうだよなあ。外部生が練習見にきちゃ駄目だよね。


「(彼女とか思ってるのかな、のこと!あー、でも紹介したくねーなー。だからと言ってこのまま帰すのも嫌だなー)」


あたしが抱き着く力を弱めても今度は悠一郎くんがぎゅむっと抱き着いてくる。「ゆーいちろーくん?」って声を掛けたら「あー・・うん」って首筋に息が掛かった。ちょっとくすぐったい。


!」
「えっ!なに!?」


いきなり悠一郎くんがあたしの肩を掴んでくるものだから思わず力んだ返事を返してしまう。
悠一郎くんはにかりと歯を見せて笑う。ああ、笑顔全然変わってないなあ。なんてちょっと安心してみたり。


「行こっ!」
「え、あ、あたし邪魔じゃないの!?」
「んな訳ねーじゃん!モモカンに言えば見学ぐらいさせてくれる筈!」
「わー、本当!?嬉しい!」
「その変わり他の奴らと話すの禁止なー!」
「えっ、なんで?」
「なんでもー!」


あたしが次の言葉を言う前に手を握って走り出す悠一郎くん。ちょっと転びそうになったけどなんとか体勢を取り戻して一生懸命に走っていく。
悠一郎くんはもっと足速い筈なのに、あたしに合わせてくれてる所も前と変わってない。なんだか嬉しい。


「悠一郎くんっ」
「んー?」
「ありがとう!」
「いえいえ!」






いつか幼なじみから恋人になってみせる!





「うおっ、こっち来た!」
「なんか・・可愛くねぇ?」
「「「花井・・」」」
「なっ・・バッカ!ちげーよ!」
「でも確かに可愛いかも。田島の彼女かな(寝癖なのかくせっ毛なのか髪の毛跳ねてるけど)」
「「「泉・・」」」
「・・お前らだって思ってるくせに」