「ファイトー!」
「ファ、ファイトー!」


千代に少し気後れしつつもは自分が出せる精一杯の声量で部員達を激励する。何故他校、しかも中学生のが此処に居るのか。それはモモカンの好意のおかげでもある。
田島に会いたくて西浦までやって来たを幼馴染のよしみで見学だけなら、と許可をしたのが1週間前。そしていつのまにか千代の手伝いをする様になった実質マネージャーのを咎める者は誰もいない。
彼らも花の高校生である。女のマネージャーが増えて嫌な筈がない。その容姿や天然な性格からもあるのか、今やは影で野球部員の天使と称されていた。


ちゃん、もうそろそろ休憩入るからドリンク用意しておこうか」
「はい!」


千代ももすっかり仲良くなり、男子部員からして見れば微笑ましいの他なかった。
そして千代の言う通りすぎモモカンが休憩を告げる。は休憩のタイミングが分かる千代を流石だ、と思いやっぱりこの人は素敵な人だと再確認した。


ー!ドリンクくれっ!」
「うん、悠一郎くん!」


田島が毎回一番初めにの元へ行くのも最早恒例である。以前水谷が何気なくに1番でドリンクを貰ったとき、田島の機嫌といったら目に見えて分かるほど悪くなった。
水谷とキャッチボールの相手を組み、わざと取れない様な所へ投げ「クソレフト!」と悪態をついたのは紛れも無く田島である。流石にあれは理不尽すぎた。
しかしその事件のおかげで今は田島より先にからドリンクを貰おうと思ってる者は誰一人いない――いや、隙があれば貰おうと思ってる者なら数名居る様だが。


「あー。三橋くんっ、どうぞ!」
「あ、ありがとう・・うっ!」


ドリンクを渡す際に偶然触れてしまった手。の方は何とも思っていない様だが三橋としては大問題だ。
女の子の手に触ってしまった。すべすべする。柔らかい。って何考えているんだ自分!それが彼の心境である。


「三橋・・くん?だいじょーぶ?」
「あ、えと、その、あ、うん!!」
「あっ!三橋くんかっこよかったよー!あたし野球分からないんだけどね、ボール投げてる三橋くんかっこよかったー。色んな風に投げるんだね!すっごくすっごくかっこよかった!」
「・・・」


言わずもかな、三橋の顔は燃える火のごとく真っ赤だ。自分の野球を、しかも女の子に褒められるなんてこの上嬉しいことはない。
は暫く目を輝かせながらも三橋を褒めちぎっていたが、自分の仕事を思い出し慌てて三橋に頭を下げ他の部員の元へ走った。


「(・・さんで良いのかな。か、可愛いなあ・・)」


取り残された三橋はドリンクを片手に唖然と突っ立っていた。・・妬ましげに事を見ていた複数の視線に気付くこともなく。


さん、ドリンク良い?」
「はい、どうぞっ!えと・・泉・・さん?」
「泉で・・、孝介で良いよ」
「じゃああたしもで良いです」


「そういえばね、こーすけくんも凄かった!」とまるで花が咲いた様な笑みで語り続けるをにっこりと笑顔で聞いている泉は内心してやったり、と考えていた。
他の奴等より一歩リードした。もし何か言われても「年下なんだから名前呼びでもおかしくないだろ」と言えば良い。策士である。見事な策士である。外見に似合わず一番高校生らしくないのは泉なのかもしれない。


「ありがとうちゃん」


しかしは頭を撫でられた事で恋愛対象ではなく、何だかこう・・お兄ちゃんみたいだ!と嬉々とした心を隠せずに居た。
彼女にとって篠岡はお姉ちゃん、野球部のほとんどはお兄ちゃんなのである。
だが彼等はそんなことはつゆ知らず、今日も淡々とアピールチャンスを狙っているのであった。