「けいたい!買ったんだ〜」


今日も練習が終わり、日が沈もうとしていた時のこと。
の取り出した携帯が光を放って、みんながそれに注目した。


「お〜!やっと買ってもらったんだな!」
「え、さん今まで持ってなかったの?」
「うん。でももうすぐ高校生だし!って言って買ってもらったんだ」
「わぁ〜!ソフトバンクかあ!あ、ちゃんメアド教えてよ!」


『赤外線』という言葉も最初は意味が分からなかったのだが、今日多くの友人達とメアドを交換していく内に覚えた。
携帯と携帯を向かい合わせ通信を始める。傍では田島が「俺も!俺にも!」とはしゃいでいた。


「あ・・じゃあ俺も教えてもらおうかな。便利だし」


泉のこの台詞を初めとして


「っあ!お、俺も知りたい!」


水谷が挙手をして(この時田島は「クソレめ」と毒づくことを忘れなかった)


「・・俺も教えてもらおーかな。三橋も教えてもらえば?」
「え!?あ、う ん!」
「じゃ、とりあえず俺も」


他の面子もその場に合わせてのメアドを登録した。中には下心がある者も数名いるが、大多数が連絡用にと思ってのことだった。
は「一気にアドレス長が増えた」と嬉しそうに笑った。隣で田島が眉をひそめつまらなそうな顔をしていたが。


「じゃあメール待ってるね!・・あれ?メール来た」
「今送ったの俺〜!」
「水谷君か!下の名前なんだっけ」
「文貴!」
「ふみき・・?字は?」
「あ、貸して貸して」


水谷がの携帯を受け取り操作していく。は水谷に肩を寄せて珍しげに覗きこんでいた。


「へえ〜!珍しい名前だね」
「よく言われる」
「あ、花井くんも下の名前珍しいよね」
「へ?そうなの?」
「梓って言うんだぜ!こいつ!な〜梓っ!」
「・・・ああ」
「あずさ〜なんか響き良いね!あずさ〜あずさあずさ〜」
「あっずさ〜!」
「だーっ!お前らうざいっての!」


両脇にまとわりつく田島との頭を鷲づかみにする。2人とも調度良い位置に頭があっからなんかこうしたくなるんだよな、と花井は思った。
そのままぎゅっと力をいれてやれば、2人は更に嬉しそうに声をあげた。


「あはは!千代ちゃん助けてー!」
「えっ!み、水谷くん泉くん!助けてあげなよ」
「おーっし!三橋もいこーぜ!」
「おっおれは!」
「うわっ!危ねぇ!」


水谷が花井の背中に飛びつき、泉はボクシングの構えをとって「シュッシュッ!」と花井を殴る真似をする。三橋は何をしていいのか分からず、ただ周りをぐるぐると走った。
相変わらず笑いながらじゃれる6人を残りの5人は数歩下がったところで見守っていた。


「・・本当にウゼェくらい元気だな」
「阿部・・」
「でもなんかさ、ほほえましいよね」
「篠岡も混ざってくれば?」
「それは勘弁!」


もう一度達の方へ目をやれば、なぜか鬼ごっこが始まっていた。先ほどはウザったそうにしていた花井も満更でもなく楽しそうだ。
ふとと目が合い、「一緒にやろうよ!」と誘われる。
5人は顔を見合わせて笑うと、たちの元へ走って行った。










* * *










ふぅ、楽しかったな。

結局あの後は鬼ごっこから缶蹴り、ドロケイと続いていき学校の見回りをしていたシガポに注意されるまで遊んでいた。
皆練習後なのによく体力持つよね、とは感心する、それと同時に私も体力つけたいな。マラソンでもするかな、と意を決した。


『〜♪』


先程から頻繁に鳴っている携帯を手に取る。人生初の自分用の携帯はとても愛しく思えた。
ひとつひとつメールを開けていき、その度に登録をして返信を打つ。
始めて携帯を使うにはその作業は困難を極め、かなりの時間を要してしまった。
そして、遂に最後のメールを開いた。


『せんぱ〜い。りおーっす。届きましたあ?』

「・・?」


誰だろうか・・としばらく悩んだところでふと思いつく。確か1個下に同じ陸上部の里緒という後輩がいた。しかし表示されているのはメアドではなく携帯の番号だ。
というよりそもそも、今日は里緒と喋っていない気がするのだが・・。


『りお?どうして電話番号表示されてんのかなこれ?』

『じゅんた先輩ボケました?ソフトバンク同士は電話番号でメール送れるじゃないっすか』

『えっ電話番号で送れるの!?凄いねえ!ってか、りおソフトバンクだったっけ?』

『変えたんですよ!学割効いて安いからって今日話したじゃないですか〜そしたら先輩が電話番号教えてくれたじゃんかあ』

『そうだったっけ・・?まぁ、登録しとくね!(^_^)』

『え・・・・・・・・ハイ。』


里緒はこんな性格だっただろうか。の知っている里緒という後輩はもっと元気いっぱいで常に語尾にびっくりマークがついていそうな子だ。
(しかもはソフトバンクの機能に感動して見逃してしまったようだが、『じゅんた先輩』って誰だ。)
でもまあ・・文面上だったら性格くらい変わるよね!とは自分自身を納得させ、再び返信を打ち始めた。


『りお、部活がんばろーね』

『ハイ!今日も部活お疲れ様っした』

『お疲れ!あのあとね、相変わらず悠一郎くんとこ行ったよ』

『悠一郎君って誰っすか〜』

『あれ?話したよね?幼馴染。悠一郎くんとこは遅くまでやってるから、部活終わって毎日手伝いに行ってるんだ(^0^)』

『悠一郎くんってとこで何手伝ってるんすか?』

『ん〜ドリンク作ったり、おにぎり作ったり、洗濯したり』

『はっ!?先輩が他の人のために!?ウソだぁ!!』

『失礼な!あのねぇ、実はおにぎり作るのうまかったりするんだよ!』




その後もと”リオ”のメールは夜遅くまで続いた・・。