「選手宣誓。各団の団長、副団長は前に出てきてください」


地味に疲れる校長先生の話が終わった後は選手宣誓。宍戸と目配せをして立ち上がり、駆け足で前へ進み出る。副団長はそれぞれ団の旗を持って、団長の後ろへつく。


「誓いの言葉」


こんな時にかっこつけてどーすんだ!って叫びたくなるような喋り方をしたのは黄団の団長、跡部景吾。うわ、指鳴らしたよ。パチン!って。ちょっと場違いじゃね?


「僕達は、スポーツマン精神に則ってー」


微妙な訛りと共に不敵な笑みを浮かべる青団の団長忍足。今年の団長ってテニ部ばっかだな。


「正々堂々と戦うことを」


白団団長の柳瀬(とかそんな名前だった気がする)。団長だけあってかっこいい。


「誓います」


そして、最後に我らが赤団の団長宍戸が声を張りあげる。幼稚園から一緒だった宍戸、家も隣り合わせの宍戸。いつのまにかこんな男の子っぽくなったんだなあ・・ってあたし変態チックだぞ!
とにかく頑張るぞ!中学最後の体育祭だもん。絶対優勝だ!最後に拍手が沸きあがり一礼して選手宣誓は終了。その後に準備体操とかそんなんがあって、体育祭開幕!つ、ついに始まった!最初の競技は――


「50m・100mだな!出る奴頑張れよ!!」


――うん。宍戸に先越された。




*  *  *




「あ!先輩!」
「うおっ!?ちょ、長太郎くん!」


応援席への移動中に背後から声を掛けられ、振り向けばやっぱり長太郎くん。長太郎くんは確か黄団だったかな。黄色い鉢巻巻いてるし。


「確か・・100m出るんだよね」
「!覚えててくれたんですか」


長太郎くんの顔には満面の笑みが広がり、私もそれにつられて笑顔になる。そんな長太郎くんのはにかんだ笑顔がもっと見たくなって、彼を喜ばせる言葉を脳内で探す。


「他には棒引きとー、」
「棒倒し、騎馬戦、障害物、応援合戦、団対抗リレー・・ですね」
「宍戸とほぼ同じだね」
「・・そう、ですね」


明らかに不機嫌顔になる長太郎くん。最悪だ。私、また宍戸のネタ出しちゃった。なんかいつも奴のこと考えてるみたいじゃん!いや、実際そうなん――あ!あくまで団長としての宍戸だけど。
すると急に頬に感じる柔らかい感触―――って、おい、長太郎くん!?!?


「ちょっとムカついたから、見せびらかした、なんて」
「え、あ、う、ん、あえ!?」


恥ずかしくて多分顔が真っ赤だ、私。な、何に恥ずかしいのかは分からない!長太郎くんにキスされたことか、それとも宍戸に見られたことか――。わかんないけど、すっごい恥ずかしい!ナニコレ!!
一方長太郎くんは私の困惑具合が面白いのかクク、と喉で笑っていた。


「――って、言いたいところなんですけど、多分誰も見てませんよ。みんな応援に夢中ですから」
「本当、だ」


もう50mの予選は始まったらしい。ピストルの音や歓声が聞こえる。私も行かなきゃな・・!


「じゃあ、先輩。また(ちょっと勇気出して良かったな)」
「うん、そうだね?!またね!?(ってなんでわたし全部疑問形なの!)」


そう言って、入場門へ駆けていく長太郎くんは何だかかっこよくて、ドキドキする。



恋とか乙女とか似合わない私でも、こういうのってアリなのかな。