「俺さ、跡部には勝ちてーんだよ」


台風の目が終わり、退場門へついた時。宍戸はめずらしく真面目な顔をしてそう呟いた。
一方あたしといえば先程の事件(あたしにとっちゃ事件だ。・・事件か?)にどうやらショックを受けているらしく、なんともいえない複雑な気持ちを捨てきれずにいる。


「え、なに?」
「なんか・・小学生の頃からずっといがみ合っててよ・・テニスでも、すげえ悔しいけどあんま勝てねーし」
「ああ、そうだったよね」


こいつと跡部の仲の悪さったら半端ない。いや、本当は仲が良いからこそここまでいがみ合ってるのかもしれないが、宍戸と跡部はあたしから見てもライバル同士と言える。
負けず嫌いなあいつらは、小学生の頃は公園で夜まで打ち合っていたことがよくあった。まあ、そういう時大抵は跡部の家の人が探しにくるのだけど。


「だから、ぜってー跡部には勝ちたい」
「おう。頑張れ」
「台風の目1位になったおかげで黄団と並んだからな!勝てるよな!」
「当たり前だろ!この調子で絶対勝てる絶対頑張ろう!」
「おう!!」


イッツ 単純 イズ ミー。この際文法なんて無視です。


「あ、俺次の棒倒し出るんだった」
「まっ頑張りたまえよ」
「うぜー」


宍戸がふざけたように歯を見せて笑った。


「ちゃんと赤団の俺様のことを応援したまえよ」
「ばーか」


どこの跡部だよ、と付け加えて背中を叩く。ばーかばかばかこのハゲ。分かってるよ。今度は赤団を応援するよ。
所詮女なんてみんな単純だよね。なんていうか、よく分からないけどこいつの笑顔を見るとぐるぐるした気持ち悪いものが飛んでいく。幼馴染だからなのかな?



*  *  *



「「キャアアアアアアアア!!」」
「イヤー!!忍足先輩頑張ってください!!」
「頑張って宍戸くーーん!!」
「ひっ、日吉くんかっこいいー!!」


・・・。おいおい、言葉を失うぜ!

棒倒しといえば、男気溢れる野蛮な競技な訳で。棒倒しに出る男子はみんな上半身裸な訳で。棒倒しにでる男子の中にはテニス部の連中もいるわけで。テニス部の連中の上半身裸、これはファンにとって絶叫ものな訳で。
要するに、先程から黄色い悲鳴が耐えません。宍戸君、良いんですかコレ。みんな団とか関係なくテニス部応援してるよ。


「なによ馬路これつまんねー」
「おいちゃん。暴言は慎め」
「景吾どうして出ないのよ」
「なるほどそういう意味でか」


ちゃんってこう見えて一途なんだなあ。どうやら彼氏意外の裸には興味がないらしい。眠そうな顔をして「ガンバレー」と適当に呟いている。
あたしとは大違いだ・・あたしときたら、彼氏の長太郎くんが上半身裸だというのに何も感じない・・・って嘘だけど!!ちょっと胸キュンしちゃったけど!!
だってさ!年下の肉体見て「あ・・(ハート)」って思うのもどうかと思うけどさ!?かっこいいんだもん!!引き締まってて!長太郎くんスタイル良いし!!


「・・ふふ」
「どうした。にやけてるわよ」
「いやいや・・、ふふ」


宍戸だって、やっぱり騒がれるだけあってかっこいい・・と思う。思うだけだけど。(思うだけだけど?)なんていうか、頼れる兄貴の背中!って感じがする。うおお、すごいすごい。宍戸が敵の陣に突っ込んでいってる。うおー!棒にのぼったよあいつ!


「宍戸ー!頑張れー!!」


聞こえてはいないと思うけど、一応宍戸に言われたし赤団の(ここ強調)宍戸に声援を送る。というよりは、応援せずにいられないねコレ!
グランドの中心では宍戸が青団から勝利を奪い取っていた。黄色い悲鳴が一層強くなる。




なんか気づいたらあたしも叫んでいた。黄色い悲鳴じゃなくて勇ましい雄叫びだったけど。