「わわ、!どうしたの、その傷!」
「え?」
「ほっぺほっぺ!」


言われるがままに頬を触ってみると、べったりとついたのは赤い液体。
うわ、これ本当に全部あたしの?きっと、最後に黒澤さんに引っかかれた傷だろう。
こんな重症だったんだ・・。


「手当てしてもらおうよ!」
「あ、うん。じゃああたし行って来るよ」
「私も行く行く!心配だもん」
「へーきへーき!もうお昼だしさ。さき食べてて!」
「でも・・」
「保健室のテントも大勢で行くと迷惑だしさ!」
「・・分かった。気をつけて」
「後でジュース奢ってあげるね」
「私はうまい棒奢ってあげるよ」
「わー10円の優しさプライスレス。ありがとう」


あたしの騎馬だった子達に手を振り、保健室のテントを目指す。
もう一度そっと傷に触れると、先程の数倍ヒリヒリと痛んだ。
・・顔から血をダラダラに流しながら歩く、っていうのもアレだし、このまま頬を手で隠して行っちゃおう。

グランドを歩き、ようやく保健室のテントに辿り着く。
そこには熱中症で倒れたであろう生徒が額に冷えピタを貼られて寝ていたり、膝を擦りむいた生徒が手当てを受けていた。


「すんまっせーん」
「はーい。どうしたの?」
「これ、さっき怪我しちゃいました」


右手をそっと離し、頬の傷を指差す。
先生は「あらら」と痛々しそうに顔を歪めた。うん、結構悲惨だよねこれ。


「とりあえず消毒するね。染みるけど我慢」
「ほーい・・・・・っつ〜!!」
「切り傷は染みるからね」


切り傷って!黒澤さんの爪凶器!軽く殺人未遂入ってるよね!


!!」
「うわ、宍戸」


ちょうど頬の消毒が終わった時、肩で息をする宍戸がテントの柱の傍に立っていた。多分、赤団の応援席から走ってきたんだろう。優しい団長め。ちょっと嬉しいなんて、絶対内緒だ。


「うわ・・大丈夫かよ」


宍戸はあたしの頬の傷を見て眉を寄せる。やっぱりそんなに酷いですか。うん、あたしも自分でも思うけどね。さっきから血が止まんない!


「そんなことより宍戸!あたし勝ったぞ」
「おう!よくやったな!」


宍戸は腰に片手を沿え、ニッと笑う。
その時、あたしの頬にはガーゼが貼られちょうど手当てが終わったところだった。

保健室の先生にお礼を言うのと同時に頭を下げ、宍戸と保健室のテントを後にする。


「凄かったぜ。勇ましかった!お前男子の騎馬戦にも出れるよ!」
「それ褒め言葉なのか貶されてるのか分かんないから」
「黒澤泣いてたぜ」
「え、何それ!あたし悪者じゃん」
「な!激ダサだな!」


ていうことは、青団の女子(もしかしたら黒澤さんのファンの男子にも)の目にはあたしは悪者に映ってるんだろうか。・・覚悟はしてたけどさ。ちょっとムカッとくるよね。これであたしが黒澤さんの顔に傷をつけてたなら、血祭りにあげられていたに違いない!


「あ〜、ほっぺたに跡残っちゃうかな」
「大丈夫だろ。そこまで深くないだろうし」
「もし跡残っちゃったらお嫁にいけないよ。頬に傷とか何処のヤクザ!」
「あはは!ドンマイ!まあ俺も顔に傷いっぱいあるし!」


宍戸と一緒にするな、と宍戸の頭を軽く殴る。・・けど、軽く宍戸に交わされた。
宍戸はいいさ。言っちゃあなんなんだけど、宍戸ほど傷の似合う男はいないさ。


「まあ、貰い相手がいなかったら俺が貰ってやるよ!」


え、と息を飲む。
慌てて隣を歩く宍戸を見やると、宍戸は両手を後頭部に沿え空を見上げていた。


「なんてな!アホ女には長太郎がいるだろ!」


どすん、と胸が重くなる。
ばかししど。そういうこと冗談で言わないでよ。


「・・はげ」
「あ?」
「このハゲ宍戸!」


どすっと宍戸の頭にチョップを食らわせ、あたしはグランドを走り出した。
背後から「なんだよ!」と怒鳴る宍戸の声が聞こえる。


「俺はハゲてねーからな!」


ばかししど。