終わった。ついに長年の恋愛、あたしの初恋が終わった。

前から「ダンス終わったら諦める!」という心構えがあったおかげか、今のあたしの心の中はすごくさっぱりしている。失恋してしまっただなんて思えないなあ。

あれから赤団の演技が終わり、その次に白団、そして黄団と応援合戦は続いていった。白団もなかなか完成度が高かったけど・・黄団!なにあの派手さ!こう・・まるで「え?これカーニバルですか?ていうかそもそもここって日本?」と問いたくなるような応援だった。いやいや、応援に熱込めすぎだからね。さすが跡部の団だ。

その派手な応援の中、長太郎くんも後ろの方で踊っていた。長太郎くんは背が高いもんね。自動的に後ろになってしまうんだろう。さすが運動部というか、身のこなしは立派なもので。長太郎くんはダンスも出来たのか、と思わず見入ってしまった。しかもなかなかかっこいいんだよね、これが。

そうして応援合戦は終わり、残る種目は団対抗リレーのみ。応援合戦に力を入れてきた3年生たちの中には、ところどころ泣いている子もいた。
そりゃそうだよね。自分達で1から作り上げてきたダンスが終わったからね。そりゃあくぅーっ!ってくるよね。あたしはこなかったけど。

入場門では、各団の団長と足の速い生徒達が集まっている。団長はアンカーだ。忍足、柳瀬、跡部、宍戸か・・!みんなテニス部だなおい。なんだか接戦になりそうだね。


「きゃああ!日吉くーん!!」
「いやーん!!がっくーん!!」
「チョタくーん!!がんばってー!!!」


そして黄色い歓声がさっきから鳴り止みません。走るのはテニス部やサッカー部の連中ばっかです。女の子もテニス部とバド部が多いみたいだ。

そして選手が続々と入場してくる。グランドの熱は一気にあがる。これが最後の種目なのだから、テンションがあがってしまうのも納得だ。現にあたしもウズウズしてる!


『いちについて!・・よーい!』

パァン!


第1走者が勢いよく走り出す。


「いっけー!!がんばれ赤ー!!」
「いいぞいいぞー!!」
「フレー!フレー!あーかーだーん!!」


まだどの団も差がついていないまま、バトンは第2走者へと渡される。うおおお!いっけー!がんばれー!!


「きゃー!!けいごー!!」
「ちょっ理子ちゃん跡部はアンカーでしょ!早すぎ!」
「違うわよ!景吾がこっち見て手振ってくれたの!」
「うっそお!!なにあいつ!敵の団に!!挑発か!」
「ちがうよぉーあたしが彼女だからだよ!」


そうなのか。そういうもんなのか。なんだこのバカップル。
とか思いつつ理子ちゃんが視線を注ぐ先へ目を見やる。すると、跡部の近くには長太郎くんがいて、なにやら跡部が長太郎くんに耳打ちをしていた。
長太郎くんは「いやですよ」みたいな風に顔の前で手を振っていたが、ふいにあたしがいる方向へ顔を向けた。


「あっ!ほら!、あんた鳳くんこっち見てるよ!」
「え・・あ〜・・・っ、長太郎くーん!!転ばないようにがんばれー!」
「転ばないようにってなによ」
「一応敵だからね。控えめに応援してみた」


あたしの応援を聞こえたのか、長太郎くんは、控えめに、そしてはにかむようにそっと手を振った。


「きゃああああ!」
「鳳せんぱああい!!」
「いやああああ!!!」

「ちょ、お前らじゃないっての」
「まあまあ理子ちゃん」


その瞬間、周りにいた赤団の長太郎くんファンの人たちが歓声をあげる。長太郎くんは困ったように顔を傾けて、またそっと手を振った。きっとファンの人たちにも手を振りかえされてしまったのだろう。紳士だ。か、かっこいい。

すこし目を逸らした隙に、レースはかなり進んでいた。次の次が長太郎くんたちで、その後がアンカーである団長たちだ。

現在の順位は白団、青団、赤団、黄団だったが目立った差はついていない。ほぼ互角と言って良いだろう!黄団と白団の順位が入れ替わることだって可能だ、と言えるほど、4チームの差はなかった。


「きゃああ!長太郎くーん!!!」
「がっばばってええ!!」


「・・ふぅ」
「ちょっと、も頑張りなさいよ」


そして今、バトンが長太郎くんに渡された。長太郎くんはぐいぐい抜かしていく。4位にも関わらず、どんどん人を抜いていく。その姿に応援をする声はさらに量を増し、グランド内は熱い熱気に覆われた。

そして、ついに。

バトンが、各団の団長に渡された。


「がんばれきだんー!!」
「フレー!フレー!!」
「「がんばって!まけないで!応援してるから!」」


思わず身を乗り出して応援をしてしまう。我らが赤団は――ちょっ!忍足邪魔だっつーの!!――青団を抜かし、1位を走っていた黄団の跡部と並んだ。すごい!!やっぱ宍戸すごいなーあいつ!!足速すぎでしょ!!


「「きゃああああ!!」」
「がんばれー!!!」
「宍戸ー!!!大和魂見せてやれー!!!」
「けいごー!!!!がんばってー!!!!」
「(やっぱり理子ちゃんは跡部を応援スルンダネー)」


宍戸と跡部の足の速さは互角だ!!
お互い1歩も譲らずグランドを全力疾走していく。

そして、最後のコーナーを曲がり、ゴールまで1直線となった。


「俺さ、跡部には勝ちてーんだよ」

頭の中で再生される、めずらしく真面目な宍戸の声。

「だから、ぜってー跡部には勝ちたい」

その跡部との、一騎打ちともいえる戦い。


「「わあああああ!!!!」」


ついに、跡部と宍戸がゴールした。


『只今の結果――




―――赤団、黄団、共に1着です!!!』



宍戸。どうやら、まだ決着は着きそうにないみたいだね。


「きゃああ!!やだもう、けいご超かっこいいじゃんアレ!!」
「うん、確かに凄かった!」
「鳳くんと宍戸もかっこよかったわね!!」
「だね!!やっぱかっこいいなー!」
「・・あんた、ほんとどっちに言ってんのよ」


あれ。さっきも同じような質問された気がするぞ。
あの時は答えることができなかったけど、今ならきっぱり答えられる。

あたしの視線の先には、にこにこしながら仲間とハイタッチする彼がいた。そして彼は、不意にあたしの方を向き、首を傾げてにっこり笑う。その笑顔に、あたしは手を振って答えた。


「――そんなの、決まってるじゃん。長太郎くんだよ!」