「え〜っと、じゃあみんな宍戸に注目!」
「え゛っ!言うこと決めてねーよ」


あたしの言葉に暮らすのみんなが宍戸の方向を一斉に見る。宍戸は周りの友達に急かされつつも渋々といった様子でその場から立ち上がった。


「まあ・・優勝できて良かったと思う。お前ら、ついてくてくれてありがとうな。・・お前らのおかげで、中学最後の体育祭を最高な結果で終えることができた」


うるうると今にも泣き出しそうな子が何人もいる。あたしの隣に座る由梨ちゃんもその1人だ。
あたしを見たのか、泣きそうな由梨ちゃんを見たのかはわからないが、宍戸はこちらに目を向けたあと困ったように笑った。


「まぁ、俺が言いたいのはひとつだけ!お疲れ様でした!かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!!」」」


店中にグラスのぶつかる音とみんなの楽しそうな声が響き渡る。あたしもかんぱーいっ!って勢いよく理子ちゃんのグラスの自分のグラスをぶつけたら中身が理子ちゃんに少し飛び散ってしまった。視線で殺されそうになった。こえーよ。

そう、体育祭が終わってあたしたちは今近くの焼き肉屋に打ち上げに来ている。お店の人は気を遣ってくれたのか、店内はあたしたちの貸切だ。『氷帝学園』という名のブランドの無言の圧力かもしれない。ごめんね一般の方!


「あ〜!終わったわね!」
「やっぱなんだかんだで盛り上がったよね」
「ね!まじ楽しかった!」
「景吾ちょうかっこよかった!ありえない!」
「もーノロケはやめてよね」
「ははは」


理子ちゃんはうっとりとした様子でいかに自分の彼氏がかっこいいかを語る。うるさいそんなの聞いてないやい。そう言おうとしたけどやめた。理子ちゃんに殺されかけないからだ。あたしだってまだ自分の命が大切だ。
しかたなく水をすすっていると女の子達の話題が長太郎くんの話題へ変わり、あたしに話を振ってきた。ええ・・みんなの前でこういうの話すの苦手なんですけど。


「それにしても鳳君もかっこよかったわね!」
「私ちょっと惚れそうになっちゃった。ごめんね
「こら。許さん」
「おっ!さんの貴重な一言いただきましたー!」
「貴重ってなにさ!」
こういうのあんまり言わないじゃない」
「・・・・・・・まあ、気恥ずかしいし」


あー!もうこの話終わり終わり!
そう声を荒げると理子ちゃんたちはえー、とつまらなそうな声をもらした。うるさい。こういうの人前で言うもんじゃないでしょ、このやろう!


「次は修学旅行だねー」
「つってもあと1ヵ月くらいあるけど」
「1ヵ月なんてすぐだよ!ああ、楽しみだなあ。同じ部屋になろうね、ちゃん、理子ちゃん!」
「もちろん!」


由梨ちゃんの言うとおり、来月6月には修学旅行が待ち受けている。ふつう修学旅行って9月とかそのくらいだよね。体育祭だってそのくらいだよね。うちの学校頭おかしいよねずれてるよね校長のかつらもたまにずれてるよね。

でもこれにはちゃんと理由がある。・・校長のかつらの方は知らないけど。
それは、ずばり文化祭の準備のため。
氷帝は11月に文化祭がある。毎年文化祭に力をいれている氷帝学園は今年も例外なく力を注ぎこむ。それはもうすっごく。夏休みから準備を始めるほどに。
つまりその準備に力をいれると、9月に修学旅行に行っている暇なんてないわけだ。だから、6月に行かせてしまおうという。ちょっとずるがしこい考えな訳だ。


「バスの席決めとか・・わくわくするなー」
「わ、私忍足くんと写真撮りたい・・!」
「相沢っちがんばれよーゆっくりしてると取られちゃうよー」
に言われなくたって分かってるもん!」
「え、なにこれ失礼じゃね?失礼だよね、あたしに対して」


うーん、みんな青春してるねえ。

隅の方でこっそりと育てていたお肉をこっそりと自分のお皿へ移す。うん、美味しそう。

まさに食べようとした瞬間、向こう側のテーブルに座っていた宍戸と目が合った。宍戸もお肉を食べようとしていた。タン塩だ。あたしもタン塩だ。なんか面白いから笑った。宍戸も笑った。口にいれたあと、「美味しいね」って笑った。

宍戸も「美味いな」って笑ってた。