「じゃあ私こっちだから」
「んー、ばいばーい。また明日ー」


すっかり暗くなった道をちゃんと歩く。前後にいた数多くのクラスメイト達も、今では数え切れる程少なくなっている。みんなそれぞれの家路についたのだろう。そして今あたしの隣をあるくちゃんももう少しでお別れだ。


「あー、楽しかったね」
「本当にね。終わっちゃったのがもったいない位だわ」


あたし、本当にこのクラスが好き。高校の卒業までこのクラスで良いのになあ。
そんなことを思うと急に切なくなってきた。遅くまで友達と遊んでいると、最後別れる時に無償に切なくなるような、寂しくなるようなそんな気持ちに酷く似ている。あれ、これってあたしだけなのかな。


「じゃあ、あたしこっちだから」
「うん、ばいばい」
「また明日、学校でね!」


にっこり笑いながらちゃんは手を振って右の道を進んでいく。
ついにあたし1人になってしまった。別に夜道とか怖くないけどさ、あんだけ騒いだあとだとやっぱり寂しい。こう思うのは当然だよね。

ぼーっとしながら歩いていると、急に後ろからガッと肩を掴まれた。思わず悲鳴が漏れる。勿論「きゃっ」とかそんな可愛いらしいものではなく、「うおー!」に近い悲鳴だけど。


「・・お前さあ、もっと可愛く叫べよな」
「んだよ宍戸かよ!脅かしやがって!本気でビックリしたぞ!」
「悪い悪い」


あたしの隣に移動してきた宍戸はからからと笑う。あたしと宍戸の家はお隣さん同士。やっぱり集団で遊ぶと最後まで一緒なのは宍戸な訳で。今回も例外なくそういう訳で。隣には宍戸がいる訳で。


「・・終わったなー」
「そんなしみじみしないでよ、切なくなるじゃん」
「だって切ねえもん」


宍戸は頭の後ろで腕を組んで唇を尖らせた。自分で言うのもあれだけどさ、あたしたち結構頑張ったよね。半分はちゃんたちのおかげもあるけど。いっぱいいっぱい頑張って、1位を獲れたんだよね。


「結果的に優勝できたけどさ、多分俺、ビリでも同じ気持ちだったと思う」
「・・うん」
「・・このクラスで、・・お前と、頑張れたからかなー・・とか思うんだけど」


ぼそぼそと小さい声で宍戸が喋るもんだから、途中から言葉を聞き取れなかった。「なに?聞こえなかった、もう1回言って」と言うと宍戸は「・・もういいよ」と下を向いてしまった。なんだよ、もう1回言ってくれたっていいじゃんか。


「でもさ、あたしもビリでも同じこと思ってたよ」
「だろ?綺麗事かもしんねーけど、俺本気でそう思うんだよ」
「あたしも思うよ。きっとみんな思ってるよ」
「そうかな。そうだとすげえ嬉しいけど」


宍戸が嬉しそうにはにかんだ。その笑顔を見てあたしも笑ってしまった。・・あたし達ってまだまだ子供だよね。子供だけど、いっぱい悩んで、いっちょ前に大人の真似をしたりしてみて。失敗したって成功したって、それをバネにして進む。今のあたしを見た10年後のあたしは、何を綺麗事ばっか言ってるんだって笑うのかもしれない。けれど確かにあたしは今を精一杯生きて、隣にいる宍戸も精一杯生きて、痛くて辛い現実を頑張って生きてる。それだけは変わらなくて、どんなささいな日常にも小さなドラマがある。本当にまだ分からないことばかりだけど、少しずつ知っていけばいいよね。あたし達はまだ子供だから、知らないことばかりでもこれから知っていけば良いんだよね。長太郎くんのことだって、宍戸への想いだって、ゆっくりゆっくり、解決してけば良いんだよね。


だから気持ちに・・ちょっとだけ嘘をついてみることだって、時には必要なことだよね?