「お前は何で人間なんか拾ってきたんだ!」
鬼の様な形相、というのはこの事だと心の中で頷く。
俺の腕の中には眠った女の子。向日や忍足達は呆れた表情で俺を見ていた。
「や、だってさー・・・なんか可哀想で・・・」
真実をありのままに伝えれば、跡部の眉間の皺はさらに寄った。


「お前は阿呆か!そんなことやってたら吸血鬼務まんねーだろーが!」
「まーまー跡部く〜ん。ほら、この子ちょっと可愛いじゃん!」
「まだガキだろうが。俺様にてめーみたいな幼女趣味はねーよ!」
「いやいや、ちゃんと見てよ!この子将来別嬪さんになるって!」
「開き直ってんじゃねえ!今すぐもとの所に捨てて来い!」
「やだ!ちゃんと俺が面倒見るからさぁ!ご飯もちゃんとあげるから!」
「駄目だ駄目だ!早く戻して来い!」
此処まで来たら大人しく引き下がる事なんて出来ない。俺は必死に跡部を説得し続ける。


「・・・あの2人、何しとるん?」
「人間の子供でもめてる。別に人間1人くらい良いんじゃねーか?」
「あかん岳人。1人許したらどんどん増えてまうやろ」
「でもよ、あいつ確かに可愛いぜ」
「・・・・・・・・・」
「バッ!そーいう意味じゃねーよ変態眼鏡!」







* * *










はぁ、はぁ・・・。
荒くなった息を肩で整えるのは俺だけではなく跡部もだった。
必死の説得に跡部は耳も貸さないで『駄目だ』の一点張り。
興味深そうにこちらを眺めていた奴等も飽きてきたのか、段々と己の部屋へ戻って行った。
しかし、まだ飽きていない奴がいた。にやりと妖しい笑みを漏らす仁王は壁に寄りかかりこちらを見つめていた。


「ねぇ、仁王くんも何か言ってやってよ」
「仁王がどう言おうと俺様は認めねぇぞ!」
跡部は仁王を一睨みした後、再び何度目かの迫害の視線を少女へと向けた。
――こんな幼い子を睨み付けちゃって。跡部も大人気がないのではないだろうか。


仁王は待ってましたと言わんばかりに笑みを深め、甘ったるい口調で舌を振るった。
「その子が20歳になるまで、待たんか?」
「どういう事だ。」
「『20歳の純粋な乙女の血は格別の血』って言うじゃろ」


『20歳の純粋な乙女の血は格別』――それは、吸血鬼に受け継がれる言い伝え。
その味は美食家でさえも舌を巻く味だと言う。
俺達もその味に是非お目にかかりたいと思うものの、中々そんな女性は居ないのがこの現実。
そんな女性を、仁王は自分達で育てようとしている。・・・中々、良いかもしれない。
跡部は暫く沈黙すると、「分かった」と呟いた。


「20になるまで育てて・・・それから殺す、ってことか。フン、まぁ良いだろう。」
「うーん、楽しみだなぁ。どんな味するんだろう」
「てめーら、くれぐれも手ぇ出すんじゃねーぞ。1適の血も流させんなよ」
「了解」


そして、まだ幼い少女の純潔を守る為に俺達の中で作られたルール。
まず彼女に手を出さない。そんな気が起きないように口付けさえも禁止。美味しい血を循環させる為に、彼女から血が流れるのはなんとしても防ぐこと。
あと、彼女が逃げ出さないように”彼女自身”が吸血鬼だと思いこませること――つまり、仲間だって思わせること。
これを守れない者は、吸血鬼としての役目を強制終了――簡単に言えば、殺される――させる。



こうして、俺達との物語が始まった。






NEXT