それは誰もが平和だ、と呟く麗らかな昼の事。
吸血鬼の彼等は1人の少女の所為で大混乱に陥っていた。


「ほら、!飴さんあげるから降りといで!」
「やーっ!」
の好きなお菓子もあるぜ!」
「やーっ!ぜったいやー!」
口を一文字に結び、断固として木から降りようとしないに段々俺達の表情も曇ってくる。
・・・一体、何処で木登りなんて覚えたんだか。もし俺達の中にそんな遊びを教える様な奴がいたら・・・丸井辺りだろうか。
そんな考えを馳せらせ丸井を横目で見やれば、俺と目が合い瞬時に逸らされた。
――丸井くん、後でゆっくり話そうか。


そしてとうとう、俺の堪忍袋が限界まで達した。彼女の最大の保護者である俺は上に居るに向かい叫んだ。
!好い加減にしろ!」
「―っ、ぅ・・・ひっ・・・」
「泣いても駄目だ!早く降りてこい!みんながどれだけ心配したと思ってんだ!」
「ぅ・・・うわーん!きよすみのいじわるー!きらいだもんー!うわーん!」
「――っ!え、!ごめん!」
「お前それじゃあ意味ないだろーが」
の一言に顔を真っ青にさせる俺。に嫌われる、なんて考えただけで背中に冷や汗が伝う。
自分の命よりが大切、なのにそんな彼女に嫌われるなんて・・・!考えただけでも恐ろしいではないか!


、なんでそんなに怒ってるんだ?」
そんな中、黙って見ていた日吉の瞳がを捕らえ訪ねる。
はその眼力の強さに「う、」と言葉を濁すと恐る恐る口を開いた。
「・・・だ、だって、だけ、みんな仲間はずれにするんだもん!・・・っひぅ、、知ってるもん!みんなの悪口言ってるんだ!」


の発言を聞き、それぞれが疑問の色を己の顔に表す。自分達がの悪口を言うなど考えられない。
第一悪口を言ったところで、同じくを激愛している不二や幸村がそれを許す筈がない。
「悪口・・・って、なんのことだい?」
ふわり、といつもの美麗な笑顔を浮かべる幸村でさえも、今日はその笑顔に理解に苦しむような表情が付け加えられていた。


「よる、が寝た後みんなで悪口いってる!しってるもん!」


――ああ、会議のことか!
確かにのことを話し合っているのは事実だ。だが陰口を叩いているなんてとんでもない。寧ろその正反対である。本来の会議は、の様子について報告したり今後のことについて話し合ったりするものなのだが、何時の日からか『会議』と称したののろけ話になっていた。


〜。おれたちの悪口なんて言ってないよ?おれたち、だ〜いすきだもん」
「ぅ・・・ほんと?」
「ホントホント。だから降りて来いよ?」
「・・・・・・ん!――っぎゃう!」
「っ!?」
ようやくが笑顔を見せたと思いきや、は足を滑らせてしまった。このままではが大怪我をしてしまう。ましてやの血を流すことはルール破り。誰もがそう思いの落下点に走り出すが。


「っと!」
まあ、そんな時はらぶ!な俺が黙ってはいないので心配は皆無である。


その後、が皆に小1時間お説教されたのは言うまでもない。
だがやはり、が泣いてしまうと皆甘くなりついつい抱きしめてしまうのも言うまでもないだろう。






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