サバン市というこの町はなかなか良いものだ。 町は活気に満ちており、町人たちもノリが良い。私はノリの良い人間が大好きだ。私自身もこれまでノリで生きてきた様なものだからな。 「そこの人。この辺に美味しい料理屋はないか?」 「旅人かい、兄ちゃん。美味しい定食屋ならここを真っ直ぐ行ったところにあるぜ」 「ふむ、そうか。どうもありがとう。引き止めてしまってすまなかった。」 「いーんだ気にするな。気をつけて行けよ!」 ほら、この様にこの町の人は親切だ。私の母国、ジャポンではこんな人は滅多にいないだろう。あの、と声をかけるものなら「すみません」と言って何処かへ去ってしまう。どうせ変なセールスや勧誘だと思っているのだろう。大きな間違いだ、そして凄く失礼だ。 さっきのオヤジの言うとおり真っ直ぐに大通りを進んでいると定食屋が見えてきた。きっとオヤジが言っていたのはこの定食屋だろう。そろそろお昼時だろうし小腹もすいてきた。やはり異国の地というものは時の流れが早く感じるものだ。 「へい、らっしゃい!」 店に入るなり威勢の良い声が聞こえてくる。うむ、雰囲気も良い店だ。出てくる料理にも期待が出来そうである。 それにしても何を食べようか。店内に貼り付けられているメニューをざっと見るが、ううむ・・ステーキが食べたくなってきたな。店主にステーキ定食はあるか聞いてみるか。 「ステーキ定食はあるか」 「・・!」 なんだ、その「きたな!」みたいな顔は。 「ああ・・焼き方は?」 「ふむ・・腹は減っているが手間をかけた方が料理は美味いからな。弱火でじっくり頼む」 「あいよ」 「お客さん、奥の部屋へどうぞ」 そう言って誘導された先は小部屋。何故私だけ個室なのかは意味が分からないがとりあえず中央にステーキが置いてあったので食べ始める。 うむ、言わずもがな美味しいが、あの店主は私の話を聞いていたのだろうか。弱火でじっくりと言っただろうが。なぜこんなに早く出来上がるんだ。それにしても先程から部屋が動いている気がするのだが気のせいだろうか。 『チーン』 「・・」 再び個室の扉が開く。まるで地下鉄の駅のような空間に、ガラの悪い男達が沢山押し込められている。おいおい、何だこれは。しかも何故か睨まれている。・・って、待て。定食屋はどこに行ったんだ。 「これ、どうぞ」 小柄な人の手の平に乗せられているのは丸いプレート。235番とかかれており思わずそれを受け取る。 「あの・・こちらにどうぞ」 いつまでも席に座っていたからだろうか。おい、意味が分からないぞ。とりあえずせっかく頼んだステーキ定食を無駄にするのはもったいないので定食の皿も手に持って個室から出る。 それを確認すると小柄な人物は何処かへそそくさと行ってしまった。 「・・」 何の冗談だこれは。周りを見てみるとどいつもプレートを胸につけている。ふむ、よく分からないが私もプレートをつけておくとしよう。それよりも今はステーキを食べなければ。冷めてしまっては不味いからな。そして何時の時代も旅人とは貧乏なものだ。少しの食料も無駄には出来ない。・・じゃあ何故値段の張るステーキを頼んだのかと聞かれれば無論「食べたかった」としか答えられないが。 「やぁ◆オニイサン、美味しいかい?」 「・・ああ。ただ、弱火でじっくりとやってくれればもっと美味しかったと思うのだがな」 「ククク★君って面白いね」 「そういうお前も十分面白いぞ、容姿が」 「・・」 「サーカスから抜け出してきたのか?団長が怖かったか?」 「君・・」 「それともサーカス自体に嫌気がさしたか?ゴキブリとか蜘蛛が出てきたとか」 「!」 そこまで言ったところで調度ステーキを食べ終わる。値段にしては美味かった。 いきなり近づいてきたピエロ風の男の胸にも当たり前のようにプレートがついている。・・本当に、この空間はなんなんだろうな。まあ、なるようになれば良いか。 ちらりと真正面の男を見やれば、男は真面目な顔つきでこちらを見ていた(睨んでいた、って言った方が正しいのかもな、この場合)が私の視線に気づくとにやりと笑みを浮かべた。・・何か悪いことでも言っただろうか。 「(何処まで知っているんだこの男・・挑発か?)」 「おい、どうした。気分を害す言葉を言ってしまったか?それなら謝るが・・うお!」 急に男から何かを投げつけられる。びゅん、と耳元で音がなった。ぎりぎりのところで避けたので私自身には当たらなかったがどうやら私の後方に居た男に当たってしまったらしい。悲鳴をあげている。(悪いがこれは私の所為ではないぞ) 「・・何のつもりだ」 「それはこっちの台詞だ◆君は何者なんだい」 「ただのノリの良い旅人だが」 「・・クックックックッ」 男は肩を震わせて笑う。今気づいたのだが・・こいつヤバイな。頭イカれてそうだ。男は「今は・・見逃してあげよう」と何処かへ行ってしまった。そして数分後男の行った先からは他の男の野太い悲鳴が。「両手が!」と叫んでいるが何かあったのだろうか。・・この状況で何か起きない方が可笑しい、か。 どうやら私はあのピエロを怒らせてしまったらしい。また会う機会はあるか分からないがとりあえずもうあのピエロには関わらない様にしておこう。危険だ。 しばらくするとジリリリリと大きなベルの音がなり、男達がとある方向へ走り出した。 おい、どうすれば良いんだこれは。 とりあえず、この場の空気を読んで男達を追いかけるか。 → |