彼は本当は一途なんだ。
そう気付いたのは此処数ヵ月。幼馴染での私でさえ気付かなかった、という事は相当彼の女癖は悪かった。怒りなんか通り越して呆れる程だった。「好きな子のタイプは?」「女」これは彼の名言、いや、迷言だ。


、楽しい?」
「うん、楽しいよ!」


すると私の顔を覗きこむ彼はまた照れた様に頬を朱に染めにこ、と笑った。キヨとすれ違う女の子が思わず振り返っても、キヨは私だけをちゃんと見ててくれる。彼女が居るのと居ないので、キヨの性格は驚く程変わった。それはちゃんや南が言ってたことだけど、私もそう思う。キヨ自身もそう思う、と笑っていた。


「ねぇ、お化け屋敷入ろうよ!」
「えっ、」
「・・・何?お化け屋敷苦手なの?」


にやり、と笑うキヨは明らかに何かを企んでいる顔だった。・・・このやろう、負けるか。・・・いやでも、私がお化け屋敷大苦手というのは実は本当である。その、前にも言った通り絶叫系は大好きなのだが・・・ジェットコースターとお化け屋敷は違うのだ!どうもこう、お化け屋敷は苦手で・・・血とか残酷なものが苦手で…お化け屋敷だけはどうも駄目なのだ。


「苦手な訳ないじゃん!大好きだよ!」
「そう?じゃあ、入ろうよ!」


・・・大丈夫だ。ポーカーフェイスを崩さずに居れば、大丈夫!




* * *




「かなり並んでたねぇ」
「そ、そうだね」


・・・1時間も、並んだ。途中何度も「やっぱり止めよう」とは言い出そうとしたものの、中々タイミングが掴めずとうとう次の順番まで来てしまった。今更後戻りなんて出来ない!1時間を水の泡になんて出来ない!・・・こ、此処は覚悟を決めるんだ、


「ようこそ、死の迷宮・・・地獄屋敷へ・・・・・・」


ぎゃ!
思わず叫びそうになってしまった声を慌てて飲み込む。チクショー、案内係の癖に、妙に怖いぞこのやろう。隣のキヨをちらりと見やれば、なんとも余裕ないつもの笑顔をかましていた・・・ので、私も余裕な笑顔をかましておいた。


「このお化け屋敷はお1人様ずつとなっておりますが・・・宜しいでしょうか・・・?」
「えっ!!」
「・・・俺は別に平気だよー。ちょっと寂しいけどね」
「え、え、」
「ん?もしかして・・・怖かったりする?」
「あ、いや!!私も1人で平気!」
「何かあったら俺多分後ろに居るから呼んでよ!そしたら大丈夫でしょ?」
「あ、う、う、うん」


なんてこったい!1人でお化け屋敷なんて!・・・だ、大丈夫、大丈夫!所詮子供向けだ、大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・!
バクバク音を鳴らす心臓を静めるのに必死でいたら、案内係さんの説明を聞き逃してしまった。最悪だ。訳の分からないまま御札とライトを持たされて「では・・・いってらっしゃいませ・・・」なんて背中を押される。キヨも笑顔で「俺もすぐいくからー!」・・・・・・っておい、まじですか!いやでも本当、今更行かないわけには行かないよね・・・。


うわあああ、は、走り抜けてやる!