『あばあぁあ』
「ッギャーーーーー!!!」


思い切り叫んでソレから一刻離れようと、猛ダッシュで走り抜ける。い、意味が分からない!どうして此処まで怖いんだー!前に人が居てそろそろぶつかっても良い筈なのに、一向に人なんて現れない。出るのは機械仕掛けのお化けだけだ!もしかしたら後ろにキヨがいるかもしれない、なんて考えもあったものの、そう思うと何だか頼ってしまったら負けな気がして名前なんて呼べなかった。
幸い一番苦手な血的なものは出て来ていない。このまま出て来ないと良いんだけど、・・・・・・って、怖くなって来た!さっさと出よう、此処!


『助けてくれ・・・』
「う、うるさいうるさい・・・聞かないぞ、怖くないぞ・・・!」
『苦しい・・・苦しい』
「〜っ!」


角の部屋に入ったところで背後から擦れた声が聞こえた。男の人の、低い声。絶対振り向くな、って頭は命令しているのに、体は言う事を聞かず思わず振り向いてしまった。最悪だ。耐えられなくなって見てしまうの、ってあるよね!あるよね!
そして、見てしまった。


「――ひっ」


全身血だらけで、こちらに助けを求める男の人を。


「っきゃあああああ!!」


目をキツク瞑ってその場で顔を覆い隠す。いやだ、怖い、怖い、怖い。血、血があった。怖い、怖い。もう駄目だ、私歩けない。怖い。此処は怖すぎる!


「・・・やだ、〜っ・・・」


ぼろぼろと涙が溢れ出す。泣くつもりなんてなかった私を無視して、涙は溢れ続ける。


「〜っ!!」


ぎゅ、と抱きしめられる感覚。


「っきよ・・・・」


耳元にキヨの息がかかった。相当荒い息、ということは走って駆けつけてくれたみたいだ。キヨは息を整えながらも私をちゃんと抱きしめてくれていた。な、なんとか私も落着いてきた。あ、やばい、この状況ちょっとやばいぞ。なんだかんだで負けてしまった気がする。・・・勝負なんてもとからしていなかったけど。しかもお化け屋敷で抱き合うなんてこれ、恥ずかしいじゃないか!私は「あ、うん・・・うん、」と言葉を濁しながらもキヨをゆっくりと離した。


、ゴメン。本当にゴメン。」
「え、」
がお化け屋敷怖がってたのは分かったんだ。此処のお化け屋敷が1人だけ、っていうのも知ってた。でも、たまには俺の事頼ってほしくてさ・・・で、でも此処まで怖がるとは思わなかったんだ!本当にゴメン!」
「あ、え、うん・・・私も、ゴメン・・・キ、キヨは悪くないよ!」


辛そうに顔を歪めていたキヨは、私の言葉を聞くともう一度「ゴメンね」と呟いて今度は苦虫を潰したようななんとも言えない困った笑い方をしてこう言った。


「でも、どうしてこんな風になる前に俺を一言呼べないかなぁ・・・」


そんなに俺が頼りない?
――、い、いや、そういう訳ではない。決してそんな訳ではない。キヨは頼りになるし、うん、だからこそ甘えちゃいけないんだ、と思って・・・・・・ってこれいい訳にしか聞こえない、けど!


「ご、ごめん」
「俺だって男なんだから。彼女位守れるよ?」
「う、ん。ごめん。もっと頼る!」
「ラッキー!そうしてくれると嬉しいな〜」


キヨの顔はいつものへらへらした笑顔に変わってた。