意識を取り戻して暫くは自分の置かれた状況が理解出来ずただ呆然としていただけだった。徐々に広がっていく全身への痛みを感じながらも甦って行く記憶。そしてその記憶を完全に思い出した時、私の頭の中に一つの言葉が浮かんだ。

生きてる。

ってきりあの金髪の青年に殺されたと思っていたものだから、そう気づいた時は思わず涙が流れそうになった。生きていたんだ。…きっと気を失ってからも蹴る殴る切るの暴行は加えられたのだろうけど。私は一体どのくらい気を失っていたんだろう。状況から考えれば此処は侵入者達を閉じ込める牢獄だろう。そして、尋問をしに来るに違いない。だって私を生かしておいた理由はそれしか見当がつかない。その前に、なんとしても逃げたい。

後ろで手を縛っている縄をなんとか解こうともがいてみたところ、相当強く結んだらしく逆に手が痛む程だった。それでもこのままだと私は間違いなく殺される。あいにく私は「いつ殺されても覚悟は出来ている」なんてそんな台詞が言える程肝の座った女の人ではない。むしろその逆。「殺されるなんて絶対いやだ」…単刀直入に言えば怖い。今でも体の震えが止まらない。


「う゛ぉぉおおい!てめぇ何してる」
「逃げようとか考えんなよ?あー早く殺してー!」


一瞬心臓が止まったかと思った。低く呟かれた2つの言葉は、言うまでもなく私に向けられたもの。ああ、これから殺されるのか。なんて簡単に受け入れる事が出来るはずもなく、抵抗と言わんばかりに思い切り彼らを睨み付ける。


「うっわー。お前自分の置かれてる状況分かってる?なぁなぁスクアーロ。こいつ殺して良い?」
「ベル、駄目だ。ボスは吐かせてから殺せって言ってただろーが」
「まじかよ。めんどくせー。おいお前、早く言えよー」


前髪をぐっと掴まれ無理矢理上を向かされる。流石ヴァリアー。容赦なしだ。やばいな、これ、カツラ取れないかないや普通に考えて取れるよなあ。…って、やばいじゃん!これからの仕事に支障が――って、あ。私任務失敗したんだった。…でも、私が帰るところはヒキさん達の場所しかない。

バチィッ

突然発せられた鋭い音と、手が弾かれたことに金髪少年――ベル、って言ってた――は驚いた様に口を半開きにさせていた。スクアーロと呼ばれた長髪の男の人も目を丸くして驚いていて…私も例外なく驚いた。今は、フォートディフェンサーが使えるんだ…!


「…っ…」
「こいつ…」


私が拒んだ”物体”なら弾き返すことが出来る…なら、後ろの縄も弾き返せるのではないだろうか。そう考えた瞬間、またもやあの音が鳴って後ろの束縛がなくなった。軋む体を無理矢理立ち上げ、前を見据える。その瞬間、構えられる武器。


「う゛お゛ぉおい!逃がさねーぞ!」


バチッ

切りかかって来ようとしたスクアーロは思い切り壁に打ち付けられる。余りの威力に口内で出血したらしく、流れ落ちる血を手で拭い咳き込んでいた。


「もーいーや。殺しちゃえ!」


飛んでくる無数の刃をも弾いて、床に散らばったナイフを1本取る。今の私は素手なんかじゃ戦えないし、ここを逃げ切れるような脚力も持っていない。

『フォートディフェンサーの君は弱い。弱いけれど、最強でもあるんだ――だって、攻撃を受けないんだから。じっくり殺せば良い。』

そう言ったヒキさんの妖しい笑顔が頭の中に浮かび上がった。…殺す、なんて出来ればしたくないけれど。


「あ…血だ…あ゛はぁああ…血だあ」
「…ッてめぇ…」



手加減はしない。