最悪だ。人を切るのはやっぱり慣れない。あの刺さったときの感触がなんとも言えなくて、気持ち悪くて大嫌いだ。ベルとスクアーロを仕方なく切ったときもやっぱり気持ち悪くて思わず顔を顰めてしまった。
流石ヴァリアー、何度も切っても切っても全く倒れない。ベルに至っては逆にどんどん凶暴になっていくばかり。埒が明かないので足元を狙って切りつけて、ようやく歩けなくしたと思っても這い蹲って攻撃してこようとする始末。本当に怖くて怖くて震えが止まらなかった!


「う…っふ、え」


涙がぼろぼろと止まることを知らずに流れ出す。私、生きてる。やっぱりマフィアって怖いって!怖いって言うか危険だって!…いや、そりゃあ当たり前のことなんだろうけど、怖くて怖くて今になって安心したのか涙が出てきた。

ヒキさんは、今でも私をレグランデに受け入れてくれるだろうか。…それは分からない…けど、本当にあそこしか行く場所がない。とりあえず早くヒキさん達の居る場所へ急がなきゃ。こんな返り血を浴び放題のぼろぼろ状態を誰かに目撃されたら今度こそただじゃすまない。




* * *



薄暗い路地にはやっぱり人通りがなく、流石ヒキさんの選んだ場所だと改めて実感した。まだヒキさん達がこの場所に居るといいんだけど…日本のアジトに帰っていたらもう私終わりだ。
未だに血の滲んでいる汚い手でそっとドアを開け、おそるおそる中に入る。


「た、只今…戻りました…、」


私の予想。第一声は「出て行け」だろう。それを拒んだら力ずくで追い出されるだろう。


「やぁ。遅かったねぇ」


だからヒキさんのそんな気の抜けた一言を聞いた時は、思わず幻聴かと思って耳を疑った。


「うわあ、凄いボロボロだね。ハルに手当てしてもらってね」
「え、あの、ヒキ、さん」
「ん?」
「私…、任務失敗しちゃって…、あの、…その、」
「ああ、確かにヴァリアーが奇襲をかける日時は分からなかったけれど、そんなもの俺の手に掛かれば簡単に調べがつく。”奇襲をかける”っていうことが分かったからあとは簡単だったよ」
「え、でも、どうして…」
「まぁ、につけておいた盗聴器はがベルフェゴールに捕まった時点で取られちゃったみたいだけどね」


そうだ、私には盗聴器がついてたんだ…!すっかり忘れていた。
それよりもなによりもまたヒキさんが私を受け入れてくれた事がすっごく嬉しくてやっと止まった筈の涙がまだ溢れ出てきた。


「今度は捕まらないようにもっとトレーニング増やさないとね」


ヒキさんはそんなことを言いながらもそっと私を抱きしめてくれた。



「…っ、怖かった…」