ふわりと笑うその人は、私がよく知ってる人物。3年間クラスが同じで、幼馴染で、仲が良くて・・・私の彼氏、だ。彼氏なんて響きは一見ちょっと恥ずかしいのだがその頃の私は幸せに塗れてた。いやいや、埋もれてた。





再び笑顔を漏らし、彼は私へと手を差し伸ばす。なんだ、これは。夢か。そうか夢なのか。勝手に夢に出てくるなと言いたいが、もしかして私欲求不満だったりするのか。何処かで聞いたことがあった。彼氏彼女が夢に出てくるのは欲求不満なのよーって。・・・まあ確かに彼はちょっと浮気癖があるけど・・・いやでもあれは私と付き合ってから直った筈、だ!


「     」


彼の名前を呼び、私もその手を取ろうと差し伸ばす。この手を取ったら夢が覚めると良いなあ。きっとまた遅刻寸前で走って登校してギリギリで学校に着いて、みんなに笑われて。
まるでスローモーションみたいに手は伸びていく。そして触れ合った、と思った瞬間とてつもない痛みが私の体を襲ってきた。



「・・・お、起きたー!ヒキさーん!起きましたよー!」


うるさい。耳元で叫ばないでくれ!
そんな心の訴えも空しく終わり、相変わらず叫び続ける少年の声。うっすら目を開けると見知らぬ部屋に見知らぬベット。体は包帯だらけでまるで包帯人間の様だ。なんのアトラクションだ、これは!状況を把握しようと体を起こすものの、途端に足に激痛が走った。


「あ、無理しちゃ駄目だよ!?」
「―ぐえっ!」


無理矢理押し戻された体はさっきの何倍もの痛みを伴っていた。ちくしょー、本当どうなってるんだこれ!私が何かしたか!答えはノー!だ、このやろう!それでも激痛に歯を食いしばって耐えていると、扉が開き長い髪の細目で整った顔をしたお兄さんが入って来た。


「やあ、元気かい?」


そんな訳ないだろう。この人は目が悪いのかと突っ込みたい。――が、それ以上に気になる事が1つ。この声、なんだか聞いた事がある。やばいなぁ私、記憶力ないんだよな・・・なんて考えていると追い討ちをかけるように一言。


「改めて言うよ。
 ようこそ、レグランデへ」


お、思い出したー!この声は雨の中で聞いた、あの声だ!・・・ということは、だ。あれは夢じゃなかったのか。っていうか此処は何処だ。・・・いやいや、混乱してきた。お母さんは何処だ。お父さんも何処に行った。っていうかこの人達誰だ。そして私はなんでこんな大怪我をしているんだ。


「っここ、何処・・・っ」
「レグランデ本部だよ。僕はヒキ。こっちの子はカイくん。」
「よろしく!」


カイ、と呼ばれた少年はにこにこしながら前へ進み出て、私の腕を上下に激しく振る。いたいいたいいたいいたい!仮にも怪我をしていることを忘れないでいただきたい。私 は 怪 我 人 だ!


「君は面白い体をしてるね」
「・・・ぅっ・・・・はぁ、?」


面白い体って・・・それは嫌味として受け取って良いのか。確かに私は面白いくらい幼児体系だ。コンプレックスだ。なめんな畜生。ヒキさんは茶髪の髪を揺らしにこりと綺麗に微笑んだ。


「歓迎するよ。君にはスパイとして働いてもらうからね」


スパイってあんた、ふざけているんですか!