私には色んな顔がある。 時には頭脳明晰、才色兼備、スポーツ万能な学園のマドンナになり、時には闇の世界を駆け抜ける怪盗となる。怪盗の私は社会で名を馳せており、世界中の人々が私の仕事に注目している。そして私は、活発で明るい男の子になることもある。男の私は容姿が素晴らしく良いので同性から告白されることもしばしばだ。 ・・というのは、もちろん全部嘘である。 容姿も頭脳も運動能力もいたって平凡。得意なことと言えば日本史くらいだろうか。自分で言うのもなんだが、私はいたって普通の人間である。自負している。 人生まだ十数年しか生きていないが、嫌なことも良いことも5:5の割合であった。ああ、もういやだなあ。疲れたなあなんて絶望することもそれなりにあった。三十路を超えた大人の方からすると「何を小娘が」と思うかもしれないが、ご存知の通り最近の学生は変なところでマセているのだ。うう、疲れるったらありゃしないぞ。 お年玉で貰った金額も友人達より若干少なめ(10万貰ったというツワモノもいた)、告白したこともされたこともある。最後に告白されたのはいつだ。確か中1だったか。ううん、あの頃の私は輝いていた。 学校で問題を起こしたこともなく(小さい注意ならあったが)、かと言ってずば抜けた成績を持っている訳でもない。 そんな、平凡を絵に書いたような私が何故見知らぬ男の人と一緒に寝ているのだ。 可笑しい。昨日の夜はいつも通り、普通にベットに入ったはずだ。勿論そこには誰も寝ていなかったし、酔っ払った勢いで〜っていう年齢でもない。ぴっちぴちの学生だ。 落ち着け。私は昨日、普通に寝床についた。 よく目を凝らすと、どうやら部屋も見覚えがない。急に隣で寝ている男性に恐怖を感じた。もしかして私、親にカタとして売り飛ばされたとか。・・まさか! 「・・う〜ん」 後ろから頭をとん、と少しでも押されればもれなくキスしてしまうだろう。そのくらいの至近距離に男性の顔があった。男性の腕はしっかりと私を包み込んでいる。ど、どういうことだ一体。 とりあえずこの状況を打開せねば、と身を捩ったのがいけなかったか。男性の目が、ゆっくり開いていくではないか! 「・・お、おはようございます」 背中に冷たいものを感じながら、とりあえず挨拶してみる。みるみると開かれていく男性の目は、そのうち驚愕の色を映し出した。 「!!?」 ズザザザザッ! ぼさぼさの頭のまま、彼はベットから勢いよく後ずさった。後ずりすぎてベットから落ちてしまった。不法侵入!とか叫ばれたらどうしようか。どちらかといえば叫びたいのはこちらだ。寧ろ、よく今まで叫ばなかったと褒めてほしい。 「あの、大丈」 「や!!」 それ、私の名前! 「や!が来てもうた!!」 ちょっと待て、誰か説明してくれ。 * * * 私が問いかける前に彼はハッ!と息をのみ、もの凄い勢いで部屋を出て行ってしまった。そして、どうしようかと考えているうちに彼はまた帰ってきた。ぼさぼさだった髪の毛が落ち着いている。どうやら身だしなみを整えて来たらしい。改めて見ると結構イケメンさんである。くそう、私も整えてきたい。整えるパーツなんてないが。 「あの、ですね」 「分かってんねん。が聞きたいことは分かってん。ただな、何から説明したら良いか・・俺も信じられへんよ。ホンマに?」 「は、い。私の名前はですけど」 「わ〜、嬉しいなあ。どうしよか!ん〜とな、まず君は多分、ちゅーか絶対二次元の住人やってん」 話についていけない!二次元って、漫画とか・・そういう世界のことだよね。縦と、横だけの世界。私がそこの住人って・・まてまてまてまて。 彼が言うには、私はとあるゲームの主人公らしい。きわめて平凡の私がか!と口にしたところ、彼はソコがツボなんだ!と熱く反論した。意味が分からない。 問題はそのゲームだ。俗に言う・・ギャルゲー、というものらしい。思わず鳥肌がたったが、ぎりぎりのラインで年齢制限のある描写にはいかないとか。それもどうなんだ。 ギャルゲーにしては容姿は地味(軽く傷ついた)だしずば抜けた取り得もない(普通に傷ついた)そして胸のサイズも平凡(かなり傷ついた)だが、何故だかそこが人気になり今では漫画化され、アニメとしても放送されているらしい。 アニメとなったおかげで、小さい子にも人気が出て今や『』の存在を知らない人はいないだとか。ギャルゲーがそこまで流行っても良いのか・・? そんな『私』にはコアなファンも多数ついており、彼・忍足さんもその一員らしい。(ちょっと身の危険を感じた)そんな忍足さんが今朝、違和感に目を覚ますと隣に私が居た・・という。 「ほんま、どうしよう!行くあてないやろ!?だったら俺ん家に住みや。俺1人暮らしやから、気にすることないで!あ、部屋は・・空いてる部屋、あるから。な?住みや!」 話の展開についていけないぞ。ど、どうしよう。 BACK ↑ NEXT |